シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
民主主義的奇跡―『ソネット』20

 

民主主義(democracy)の語源はギリシア語の demos (人民) と kratia(権力)をくっつけた複合語で、権力は人民にあり、権力は人民が行使するという考えとその政治形態を指して言います。

 

で、民主主義が危機に瀕するとはどういうことを言うのか。

 

安倍政権下の強権的体質、人事権を握る官邸に対する忖度、隠蔽体質、公文書改ざん、なかったはずの文書の発見、「まったく考えておりません」直後の解散、国会軽視、文科省の教育への政治介入、マスコミへの介入、女性嘲弄、威圧的に下品な言葉を繰り返す財務大臣の赤っ恥、嘘の上塗りオンパレード、ついに議会政治は機能不全状態に、まさにこの国の危機的現状が教えているところです。

 

英誌「エコノミスト」調査による民主主義指数によれば、日本は2015年度から欠陥ある民主主義国に転落しているらしい。

 

いまの機能不全状態をカオス(chaos)と言うのでしょうが、同じシッチャカメッチャカでもシェイクスピアはちょっと違う。

 

シェイクスピア劇に指定される場所や時代は千差万別、ジャンルやテーマは多種多彩、登場人物は雑多、さまざまな職業、階級、性別、人種が並び立ち、それぞれの魅力を発散して躍動し、複数の力が隣り合わせて引っ張り合う、賑やかなことこの上なし、客席にはあらゆる階層の男女が入り混じって自由気ままに座りあるいは立っていました。

 

シェイクスピアは劇の場のありようを念頭に置いて極上のエンターテインメントを提供しようとしたのであり、なかでも女優のいない劇団の現実を踏まえて作劇、とりわけ異性装のエロティシズムに強烈な演劇的インパクトを見い出していたようです。

 

ソネットにしても従来の女性讃歌のテーマではなく、途方もない状況設定を、お相手は美貌の男性であると、もちろんソネットも極上のエンターテインメントでなければならないという信念から。

 

 

 自然の女神が自分の手で描いた女の顔を持つ君よ、

 君はわが情熱の男の愛人、

   女のやさしい心を持っているが君は知る由もない

   変わりやすい移り気を不実な女が持つことなど、

   君の目は女の目よりも美しく輝き、不実な流し目はしない。

   見つめる相手を金色に輝かせながら、

 一人の風貌でありながらあらゆる人間に変貌し、

 男たちの目を奪い女たちの魂を魅惑する。

   君ははじめ女としてつくられたが、

 自然の女神は君をつくるうちにおふざけが過ぎて、

   よけいなものを付け加えて私を君から引き離した、

   私には何の意味もない一物を付け足して。

         だが女神は女たちの歓びのためにそんな選択をしたのだから、

    私には君の恋情を君の恋人には歓びを与えてやってくれ。

   

                ソネット20

 

 

 A Womans face with natures owne hand painted,

 Haste thou the Master Mistris of my passion,

 A womans gentle hart but not acquainted

 With shifting change as is false womens fashion,

 An eye more bright then theirs, lesse false in rowling:

 Gilding the obiect where-vpon it gazeth,

 A man in hew all Hews in his controwling,

 Which steales mens eyes and womens soules amaseth.

 And for a woman wert thou first created,

 Till nature as she wrought thee fell a dotinge,

 And by addition me of thee defeated,

 By adding one thing to my purpose nothing.

 But since she prickt thee out for womens pleasure,

 Mine be thy loue and thy loues vse their treasure.

 

               Quarto1, 1609


    passion = ardent love  hand = (without cosmetics)   rowling = wandering   

    amaseth = overwhelms   hew = appearance   for = to be    
    fell a dotinge = behaved foolishly     prickt = selected

 

 

求愛を中心に異性愛と同性愛が表裏一体となって展開されていることは明らか。

 

この詩の状況設定から読み取れるのは、男を演じる女の究極のエロティシズム、自分のなかの女としての他者を見据えて言葉では言い尽くせない境域に踏み込みたいが、言葉にすれば胸迫る痛切なものは裏切られ切り離され遠ざけられる、j常識的な言葉では形象できない。

 

君が好きでたまらない、讃美したい、が、書けない、いま自分は君のおかげで溢れるほどのしあわせのなかにいて輝いておれるのに、そんな状態。

 

舞台でも詩の世界でも、ありきたりな現状肯定主義と天を仰ぐ新奇なる美意識がせめぎ合っているのです。

 

表現の自由の権利はわれにあり、抑制されるものに非ず。

 

始末の悪いことに、強い者が勝ち、勝者は往々にして自分本位のハイアラーキーをつくる、自分は生命進化のいちばんの頂点にある、ど真ん中にいる、知的、論理的、霊的に一番高いところにいると錯覚する、女性は下に、自分に近ければ近いほど命の価値は高くなり、遠ざかれば遠ざかるほど低くなり、遠くにあるものほど御しやすく、下に猿などの哺乳類がいて、四本足の獣類がいて、鳥類がいて、魚類がいて、一番下に原生動物のアメーバーという植物だか動物だかわからない生物がいると妄想する。

 

そういう愚にもつかぬ三角形をつくりたがる者が不当な権力を行使していると思われるとき、表現者は何をどのように状況転換をはかればいいか、一部の妄想集団と利益独占集団を凹ますにはどうしたらいいか。

 

上下をひっくり返す、左右を入れ替える、陰をひなたにする。

 

するとどうなるか、深遠な哲学が猥褻な饗宴となり、静謐な恋の語らいが広場の喧騒となり、少年俳優演じる女が男になる、男女のアイデンテイテイーを混濁させ、女を所有し支配したはずが支配されることに、排除したつもりが取り込まれて結婚に至り、聖霊が現実世界に降り立ち、妖精が魔女や悪魔になり、魔術が使われ、奇跡が起り、この世のありとあらゆる出来事が境界を跨いで行く。

 

マッチョ優位の世界が執拗にこの世を支配するなかで、自然の女神の恵みだけは平等に、無条件に、あらゆる命あるもの、生きとし生けるものに光を与え、傍にあって心を平和に包み込んで行く。

 

自然の女神を讃美せずして何が讃美と言えるか、平等に金色に輝くところに価値を置き自己評価し他者評価しなければならない、その輝かしい価値は性差や上下という距離感で測れるものではない、男女の、男同士の、女同士のそれぞれの恋や愛や友情も並べ立てて真に自由に平等に愛を命を輝かしてくれるものの精髄を讃美し詩として遺さなければならない、そのためにはおふざけを一つ添えて奇跡を起こすくらいのことはしなければならないだろう。

 

シェイクスピアのソネットはエンターテインメントですが、そんじょそこらのエンターテインメントとは分けが違います。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

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境界線−『お気に召すまま』5幕2場

 

4月27日、韓国と北朝鮮の首脳が軍事境界線を挟んで握手、板門店の韓国側施設「平和の家」で会談しました。

 

朝鮮半島の分断が一つの国家統一に向かって動き出す気配。

 

もともとひとつながりに繋がっていた関係を恣意的に線引きしてもいずれ境界線は不分明に、冷戦終結の歴史の転換点ではそれまでの固定観念は一瞬にして吹き飛ぶことを私たちは経験によって知っています。

 

この会談が変貌への歩みとなってやがて統一旗を掲げる日を迎えられるよう強く期待したいですね。

 

男女の境界も然り、私たちには一つの性からもう一つの性へと揺れる異性装(transvestiism)の瞬間があり、人間の精神は性変換可能な両性具有を備えたときに最も強く豊かなエネルギーを発揮できるのかもしれない、そのことは遠い昔から言われてきたことでした。

 

シェイクスピア時代の男性中心の父権性社会にあっては、舞台の男装は女らしさを一層際立たせて自由な気分を楽しむ格好のエンターテイメントとなっていました。

 

男と女の2項対立が崩れて混乱が起こり異性愛と同性愛の喜劇性が高まる、男を演じる女のエロティシズムが横溢する、ばかりではない、男性優位社会に対する批判、階級の否定、個々の自由度を高める政治的主張の試みにもなっていたのです。

 

『お気に召すまま』のこの場面。

 

 

ロザリンド ああ愛しのオーランドー、胸が張り裂けそう、

 君の心臓に包帯が巻かれているのを見ると。

オーランドー 腕だよ。

ロザリンド ライオンの爪で心臓に傷を受けたんじゃないかと思って。

オーランドー 心臓には受けたよ、でもそれはある女性の眼差しのせい。

ロザリンド お兄さんから聞いたのかい僕が気絶のふりをした話

 あのハンカチを見せられて?

オーランドー ああ、もっと驚くような話も。

ロザリンド ああ、分かっているよ。いや、ほんと。

 あんな藪から棒の話はない、牡牛同士の

 喧嘩や、シーザーの私は来た、見た、

 勝ったの見栄っ張りの話なら別。君のお兄さんと、僕の妹は、逢うや

 否や見つめ合った。見つめ合うや否や、二人は

 恋に落ちた。恋に落ちるや否や、溜息をついた。溜息をつくや否や

 互いに訊ね合った。理由を知るや

 否や、恋の病いの治療法を求め合った。そして

 こうして、一段また一段と結婚への階段を登り詰め、

 いま一気に駆け上がろうとしている、結婚が許され

 なければ。我を忘れて恋の焔に

 なっちゃった、二人がそう。棍棒で引き離そうたって

 無理。

オーランドー 明日式を挙げるんだ。私が

 公爵をお招きする。でもああ、何て辛いん

 だ、他人の目でしあわせを眺めなくちゃならないんだから。

 そのしあわせの分だけ明日の私は

 心が重くなる有頂天になっている兄を

 見ると、望む女を手に入れてさ。

ロザリンド じゃあ明日、僕が役を引き受けられないとでも言うの

 ロザリンドの?

オーランドー もう想像するだけでは生きて行けない。

ロザリンド それならこれ以上君を滅入らせるようなお喋りは

 やめる。聴いてくれないか(今度は真面目な

 話)君が物分かりのいい紳士だってことは分かっている。

 こう言わなくっても、是非とも信じて

 欲しい。君のことを(つまり)よく知っているんだ。と言っても

 評価して欲しいんじゃなくてほんのちょっと信用してもらえたら、

 役に立ちたいだけ、ひけらかすんじゃない。信じてくれ、もし何なら、

 僕は不思議なことができるんだよ。それは三つのときから

 ある魔術師と知り合いになったおかげなんだ、秘術を

 究めていたが、邪なところはなかった。君がロザリンド

 心の底から愛しているなら、そのそぶりに現れているほどに。

 お兄さんがエイリーナと結婚するとき、君を彼女と結婚させてあげる。

 ロザリンドもどんなに惨めな状態に追い込まれているか、僕に

 不可能はない、君さえ差し支えなければ、

 明日君の目の前に彼女を立たせてあげるよ、本物の彼女を、

 危っかしいところは何もなし。

オーランドー そんなこと真面目に言っているのかい?

ロザリンド 命に賭けてもいい、命は大切だ、

 いくら魔術師と言ったって。そういうわけだから晴着を

 着て、友だちを呼んでくれないか。明日結婚したい

 なら、そうさせてあげる。ロザリンドを君が望むなら。

 

                   5幕2場

 

 

Ros. Oh my deere Orlando, how it greeues me to see

 thee weare thy heart in a scarfe.

Orl. It is my arme.

Ros. I thought thy heart had beene wounded with

 the clawes of a Lion.

Orl. Wounded it is, but with the eyes of a Lady.

Ros. Did your brother tell you how I counterfeyted

 to sound, when he shew'd me your handkercher?

Orl. I, and greater wonders then that.

Ros. O, I know where you are: nay, tis true: there

 was neuer any thing so sodaine, but the sight of two

 Rammes, and Cesars Thrasonicall bragge of I came, saw,

 and ouercome. For your brother, and my sister, no soo-

 ner met, but they look'd: no sooner look'd, but they

 lou'd; no sooner lou'd, but they sigh'd: no sooner sigh'd

 but they ask'd one another the reason: no sooner knew

 the reason, but they sought the remedie: and in these

 degrees, haue they made a paire of staires to marriage,

 which they will climbe incontinent, or else bee inconti-

 nent before marriage; they are in the verie wrath of

 loue, and they will together. Clubbes cannot part

 them.

Orl. They shall be married to morrow : and I will

 bid the Duke to the Nuptiall. But O, how bitter a thing

 it is, to looke into happines through another mans eies:

 by so much the more shall I to morrow be at the height

 of heart heauinesse by how much I shal thinke my bro-

 ther happie, in hauing what he wishes for.

Ros. Why then to morrow, I cannot serue your turne

 for Rosalind?

Orl. I can liue no longer by thinking.

Ros. I will wearie you then no longer with idle tal-

 king. Know of me then (for now I speake to some pur-

 pose) that I know you are a Gentleman of good conceit:

 I speake not this, that you should beare a good opinion

 of my knowledge: insomuch (I say) I know you are: nei-

 ther do I labor for a greater esteeme then may in some

 little measure draw a beleefe from you, to do your selfe

 good, and not to grace me. Beleeue then, if you please,

 that I can do strange things: I haue since I was three

 yeare old conuerst with a Magitian, most profound in

 his Art, and yet not damnable. If you do loue Rosalinde

 so neere the hart, as your gesture cries it out: when your

 brother marries Aliena, shall you marrie her. I know in-

 to what straights of Fortune she is driuen, and it is not

 impossible to me, if it appeare not inconuenient to you,

 to set her before your eyes to morrow, humane as she is,

 and without any danger.

Orl. Speak'st thou in sober meanings?

Ros. By my life I do, which I tender deerly, though

 I say I am a Magitian: Therefore put you in your best a-

 ray, bid your friends: for if you will be married to mor-

 row, you shall: and to Rosalind if you will.

 

   Thrasonicall = Boastful       paire = flight      incontinent = hastily   

  conceit = understanding       insomuch = inasmuch as     

  conuerst = associated      tender = value      bid = invite

 

 

ロザリンドが女装しているのは第1幕の宮廷の場と5幕4場の結婚の場のみ、男装は恋人オーランドーを相手に行動範囲を広げて恋愛遊戯を楽しむ絶好の隠れ蓑になっていたばかりか、恋のメランコリーに憑りつかれた相手を治療するサイコセラピストとしての役割も担っていました。

 

アーデンの森が設定されて牧歌劇に似つかわしい森ながら、蛇が出てきて、乳房を枯らした雌ライオンも出てきます。

 

兄のオリヴァーが襲われそうになっているところを助けに入ったオーランドーはライオンに傷を負わされていたのです。

 

血のついたハンカチを見せられてロザリンドは気を失いますが、そのときの言い訳が「どうやら僕は女だったほうがよかったみたい」(4幕3場)というものでした。

 

そしてこの場に至り、オーランド―がギャ二ミードをロザリンドに見立てて成り立っていた恋愛遊戯が終わり、自由な夢の世界が現実に引き戻されるのです。

 

舞台でロザリンドを演じていたギャ二ミードは子どもとも大人とも知れない性的にまだ曖昧さの残っている紅顔の美少年俳優、そんな異性装のロザリンドを見て観客は自分のなかに異質なものへ変貌する意志が存在することに気づかされたのではなかったか。

 

現実の世界において男女の役割の固定化ほど自由を奪うものはない、男と女の境界線は自己解放の自由を縛る線にしかなりません。

 

引き裂かれた存在の自己と他者のありようを鏡に映すならば、多くの境界の曖昧さが見えてくる、書き換えと改ざん、忖度と保身、セクハラと罠にはめられた等、ことほど左様に線引きされる境界線は二つに引き裂かれた一つながりの存在の曖昧さをビビッドに照らし出してくれるようです。

 

エリザベス女王時代の最盛期、イングランドがスペインの無敵艦隊を破って新興プロテスタント教国として台頭し始めたときからジェイムズ王がスペイン、ポルトガル、オランダの植民先進国に続いて帝国への夢を抱いた1580年代後半から1610年代前半までの30年間、内と外が過激に出逢ったロンドンでシェイクスピアはまさに境界世界に身を置いていました。

 

大陸の急進的なプロテスタント運動が波及してプラトニズム、ヘルメス主義、カバラ信仰、練金術、マキャベリの思想が中世の確固不動の世界観を揺るがし、経済変動によって伝統的な村落共同体が解体されて農村から都市への人口流入が激化、植民地からもたらされた異文化が伝統文化をくつがえす、そんな自己と他者の再認識を迫られる境界線のない時代がシェイクスピアの時代だったのです。

 

シティ―の北・西・東は城壁で囲まれ、南側はテムズ河を境いとして内に室内劇場ブラックフライアーズ座(1596年)とホワイトフライアーズ座(1608年)、四つの法曹学院、王侯貴族の館が劇の場としてありました。

 

周縁地区は市当局の管轄外で、シアター座(1576年)とカーテン座(1577年)は the Liberty of Holywell という自由区に、フォーチュン座(1600年)は the Liberty of Finsbury に、ローズ座(1587年)とグローブ 座(1599年)は市の南の境界をなすテムズ河岸サザックの the Liberty of the Clink に、スワン座(1595年)とホープ座(1614年)は the Liberty of the Paris Garden にありましたが、それぞれLiberty(自由)と呼ばれる解放区にありながら、市の統制とそれを抑える王の直轄権力が拮抗し、権力による規制と解放、秩序処罰と無法無頼が対立、サザックのクリンク地区には熊いじめなどの大衆的な見世物や、処刑場、精神障害者施設、娼宿、酒場があり、グローブ座では反対に向きが変る可能性を秘めた劇が上演されて、負の価値を増幅させながらも抑圧統制と解放自由を吸収混在させて相反する力が睨み合うエネルギーとなって異種混交的包括的な性格を帯びるものに昇華させていました。

 

大衆的な見世物と同列にありながら生と死の境域人生の不思議を説く深遠な哲学を溢れるばかりのせりふで境界侵犯し続ける劇と、ナッツ林檎をかじりながら口や胃袋も同時に楽しませていたロンドンの観客の呆れるばかりの貪欲ぶりがひとつながりに繋がった。

 

観客は、並みの頭ではこの世のありようははかれない、自分のなかに他者を探って境界線突破、自己表象と他者表象を鏡に映し取って可変性ある生き方を探ったのです。

 

 

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| - | 22:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
囲みを超えて―『ヘンリー5世』5幕2場

 

冬季五輪では日本女子の活躍が目立ちましたね。

 

メダル獲得ばかりでなく、相手国選手を思い遣り、涙と笑顔で言葉を交わし合う場面が見られました。

 

言葉も習慣も異なる者同士の気持ちの通わせ方は、特に口説き文句など、傍から見ていて滑稽かつ涙ぐましい。

『ヘンリー5世』にこんなシーンが。

 

キャサリン フランスの敵を愛することができるでしょうか?

ヘンリー そう、フランスの敵を愛することはできない、

ケート。でも私を愛してくれるなら、君は愛することになる

フランスの友人を。私はフランスを愛している、

村ひとつでも手放したくない。ぜんぶ私のものにしたい。

だからケート、フランスが私のものになれば、私は君のものになる。

君のものはフランスだから、君は私のものになる。

キャサリン 何のことだか分かりません。

ヘンリー 分からない、ケート?フランス語で話そう、私のフランス語は

舌に絡みつく、新婚の妻が夫の首にすがりついて、離れないみたいに。

  Ie quand sur le possession de Fraunce, & quand vous aues le pos-

session de moyフランスを手に入れ、あなたが私のものになると).

(ええっと、それからどう言えば?聖デニスよ助けてくれ)

Donc vostre est Fraunce, & vous estes mienneそうすれば

フランスはあなたのもの、そしてあなたは私のもの).

私にとってはずっとやさしい、ケート、王国を征服するほうが、

あれこれフランス語を話すより。あなたを動かすことはできそうにない

フランス語では、話しても笑われるだけだ。

キャサリン Sauf vostre honeur, le Francois ques vous parleis, il

& melieus que l'Anglois le quel Ie parle恐れながら、陛下の

お話になるフランス語は、私の話す英語より素晴らしいです.

ヘンリー とんでもない、ケート。あなたの話す英語と、

私の話すフランス語は、極めて出鱈目で、

とてもよく似ている。だがケート

これくらいは分かるだろう?私を愛することができますか?

キャサリン 分かりません。

ヘンリー そばにいる誰かに分からないだろうか、ケート?

聴いてみよう。さあ、あなたが私を愛していることは分かる。夜、

寝室に入ったら、尋ねるだろうこのご婦人に私のことを。

私には分かるのだ、ケート、あなたは私の性質をけなすだろう、

心から愛している人を。

だがケート、お手柔らかに頼む、穏やかな王女よ、

私は痛々しいほどに愛しているのだ。

あなたが私のものになってくれるなら、ケート、私は内心

そうなると確信している。あなたは戦利品だ、だから

必ず立派な兵士を生んでくれるだろう。

あなたと私は、聖デニスと聖ジョージの助けを借りて、

男の子をつくる、フランス人とイングランド人ハーフの、

その子はきっとコンスタンチノープルへ遠征して、トルコ王の

髭を摑む。そうしないか?返事はどうかな、わが美しの白百合の花。

キャサリン 私には分かりません。

ヘンリー 分からないか。これから分かるようになる、今は約束を。

いまは約束だけケート、努力して男の子のフランスの性質をつくると。

イングランドの半分については、王としての、男としての私の約束だ。

どう返事してくれるかな、La plus belle Katherine du monde mon trescher

& deuin Deesse(世界で一番美しいキャサリン私の愛する神聖な女神)。

キャサリン 陛下は嘘のフランス語をお話になって

フランスで最も思慮深い娘を騙そうとされています。

ヘンリー 私の嘘のフランス語はどうでもいい。名誉にかけて

真実の英語で、愛しているよケート。その名誉にかけて、私は

あなたも愛してくれているとは言わないが、本能が囁き始めた、

あなたも私を愛してくれていると。お粗末な

女には好かれない顔をしているが。いまじゃいまいましい

私の父の野心が、父は内乱のことばかり考えていた

私が生まれた頃には、だから私は生まれてしまったのだ

いかつい顔つきをして、鉄面皮で、

口説こうとしても、相手を脅してしまう。正直言ってケート

年をとれば、もっとやさしく見えるようになる。慰めは、

老齢が、美を壊して行くが、この顔をこれ以上

醜くはできない。夫にするなら、もしあなたが私を夫にするなら、

最悪の状態で。妻になってくれ、もし私の妻になってくれるなら、

これからはよくなる一方だ。だから言ってくれ、美しい

キャサリンよ、受け入れてくれないか?乙女の恥じらいを捨てて。

心の思いを宣言してくれ

女帝のやり方で、手をとって、言ってくれ、イングランド王

ハリー、私はあなたのものだと。その言葉で私は

祝福され、あなたに明言する、イングランドはあなたのもの、

アイルランドもあなたのもの、フランスもあなたのもの、ヘンリー

プランタジネットもあなたのものだ。私は、王の面前で宣言するが、

たとえ最良の王と同列でなくても、

善良な人びとの最良の王になってみせる。さあ

片言の英語でいい。すべての者の女王、キャサリン、

心を破って破れた英語で言ってくれ。あなたは

私を受け入れてくれますか?

キャサリン それはde Roy mon pere(私の父王)の意志によって。

ヘンリー もちろん、お父上の意志です、ケート。お父上の意志

なんですよ、ケート

キャサリン それなら私もよろしいです。

ヘンリー それを聴いてあなたの手にキスを、そしてあなたを

  王妃と呼びます。

キャサリン Laisse mon Seigneur, laisse, laisse, may foy: Ie ne

   veus point que vous abbaisse vostre grandeus, en baisant le

   main d'une nostre Seigneur indignie seruiteur excuse moy. Ie

   vous supplie mon tres-puissant Seigneu(陛下放して、放して、放して、

 ほんとうに。召使いの手にベイゼなど、  尊厳をなくされては。お許しを).

ヘンリー ではあなたの唇にキスを、ケート

キャサリン Les Dames & Damoisels pour estre baisee deuant

leur nopcese il net pas le costume de Fraunce(女の人が

結婚前にベイゼされるのはフランスの習慣ではありません).

ヘンリー ご婦人、わたしの通訳さん、何て言っているんですか?

婦人 それは習慣ではありませんフランスのご婦人方にとっては。

ベイゼは英語で何というのか分かりません。

ヘンリー キス。フランスでは娘たちにとって習慣ではない

結婚前にキスするのは、と言っているのかね?

婦人 Ouy verayment(はいその通りです).

ヘンリー ああケート、厳格な習慣は偉大な王には呪いになる。

ケート、あなたも私も閉じ込められていてはいけない

一つの国の習慣というひ弱な囲みのなかに。我々が

礼儀作法をつくるのだ、ケート。この場にふさわしい

自由が、あなたのあら捜しの口を塞いで、こう

やって、あなたの国の気難しい習慣を確認

する、あなたが私のキスを拒んでも。だから我慢して、

負けなさい。あなたの唇の甘い感触のほうがずっと雄弁だ、

フランスの高官どもの言葉より。

あっと言う間にイングランドのハリーを説得する、

 王たちの総嘆願よりも。来られたようだ

 お父上が。

 

                  5幕2場

 

 

Kath. Is it possible dat I sould loue de ennemie of Fraunce?

King. No, it is not possible you should loue the Enemie

 of France, Kate; but in louing me, you should loue

 the Friend of France: for I loue France so well, that I

 will not part with a Village of it; I will haue it all mine:

 and Kate, when France is mine, and I am yours; then yours

 is France, and you are mine.

Kath. I cannot tell wat is dat.

King. No, Kate? I will tell thee in French, which I am

 sure will hang vpon my tongue, like a new-married Wife

 about her Husbands Necke, hardly to be shooke off; Ie

 quand sur le possession de Fraunce, & quand vous aues le pos-

 session de moy. (Let mee see, what then? Saint Dennis bee

 my speede) Donc vostre est Fraunce, & vous estes mienne.

 It is as easie for me, Kate, to conquer the Kingdome, as to

 speake so much more French: I shall neuer moue thee in

 French, vnlesse it be to laugh at me.

Kath. Sauf vostre honeur, le Francois ques vous parleis, il

 & melieus que l'Anglois le quel Ie parle.

King. No faith is't not, Kate: but thy speaking of

 my Tongue, and I thine, most truely falsely, must

 needes be graunted to be much at one. But Kate, doo'st

 thou vnderstand thus much English? Canst thou loue

 mee?

Kath. I cannot tell.

King. Can any of your Neighbours tell, Kate? Ile 

 aske them. Come, I know thou louest me: and at night,

 when you come into your Closet, you'le question this

 Gentlewoman about me; and I know, Kate, you will to

 her disprayse those parts in me, that you loue with your

 heart: but good Kate, mocke me mercifully, the rather

 gentle Princesse, because I loue thee cruelly. If euer thou

 beest mine, Kate, as I haue a sauing Faith within me tells

 me thou shalt; I get thee with skambling, and thou

 must therefore needes proue a good Souldier-breeder:

 Shall not thou and I, betweene Saint Dennis and Saint

 George, compound a Boy, halfe French halfe English,

 that shall goe to Constantinople, and take the Turke by

 the Beard. Shall wee not? what say'st thou, my faire

 Flower-de-Luce.

Kate. I doe not know dat.

King. No: 'tis hereafter to know, but now to promise:

 doe but now promise Kate, you will endeauour for your

 French part of such a Boy; and for my English moytie,

 take the Word of a King, and a Batcheler. How answer

 you, La plus belle Katherine du monde mon trescher & deuin

 deesse.

Kath. Your Maiestee aue fause Frenche enough to

 deceiue de most sage Damoiseil dat is en Fraunce.

King. Now fye vpon my false French: by mine Honor

 in true English, I loue thee Kate; by which Honor, I dare

 not sweare thou louest me, yet my blood begins to flat-

 ter me, that thou doo'st; notwithstanding the poore and

 vntempering effect of my Visage. Now beshrew my

 Fathers Ambition, hee was thinking of Ciuill Warres

 when hee got me, therefore was I created with a stub-

 borne out-side, with an aspect of Iron, that when I come

 to wooe Ladyes, I fright them: but in faith Kate, the el-

 der I wax, the better I shall appeare. My comfort is, that

 Old Age, that ill layer vp of Beautie, can doe no more

 spoyle vpon my Face. Thou hast me, if thou hast me, at

 the worst; and thou shalt weare me, if thou weare me,

 better and better: and therefore tell me, most faire Ka- 

 therine, will you haue me? Put off your Maiden Blushes,

 auouch the Thoughts of your Heart with the Lookes of

 an Empresse, take me by the Hand, and say, Harry of

 England, I am thine: which Word thou shalt no sooner

 blesse mine Eare withall, but I will tell thee alowd, Eng-

 land is thine, Ireland is thine, France is thine, and Henry

 Plantaginet is thine; who, though I speake it before his

 Face, if he be not Fellow with the best King, thou shalt

 finde the best King of Good-fellowes. Come your An-

 thy English broken: Therefore Queene of all, Katherine,

 breake thy minde to me in broken English; wilt thou

 haue me?

Kath. Dat is as it shall please de Roy mon pere. 

King. Nay, it will please him well, Kate; it shall please

 him, Kate.

Kath. Den it sall also content me.

King. Vpon that I kisse your Hand, and I call you my

 Queene.

Kath. Laisse mon Seigneur, laisse, laisse, may foy: Ie ne

 veus point que vous abbaisse vostre grandeus, en baisant le

 main d'une nostre Seigneur indignie seruiteur excuse moy. Ie

 vous supplie mon tres-puissant Seigneur.

King. Then I will kisse your Lippes, Kate.

Kath. Les Dames & Damoisels pour estre baisee deuant

 leur nopcese il net pas le costume de Fraunce.

King. Madame, my Interpreter, what sayes shee?

Lady. Dat it is not be de fashon pour le Ladies of

 Fraunce; I cannot tell wat is buisse en Anglish.

King. To kisse.

 It is not a fashion for the Maids in Fraunce to

 kisse before they are marryed, would she say?

Lady. Ouy verayment.

King. O Kate, nice Customes cursie to great Kings.

 Deare Kate, you and I cannot bee confin'd within the

 weake Lyst of a Countreyes fashion: wee are the ma-

 kers of Manners, Kate; and the libertie that followes 

 our Places, stoppes the mouth of all finde-faults, as I

 will doe yours, for vpholding the nice fashion of your

 Countrey, in denying me a Kisse: therefore patiently,

 and yeelding. You haue Witch-craft in your Lippes,

 Kate: there is more eloquence in a Sugar touch of

 them, then in the Tongues of the French Councell; and

 they should sooner perswade Harry of England, then a

 generall Petition of Monarchs. Heere comes your

    Father.

 

  moue = persuade    parts = qualities    skambling(= scrambling)= fightimg

  Saint Dennis and Saint George = Patron saints of France and England

  Flower-de-Luce フランスの国家紋章    moytie = half  Damoiseil = Maiden

  blood = instinct  beshrew = curse    layer vp = preserve

  buisse = kiss    nice = fastidious     Lyst = Barrier

 

 

ハリーは本能が囁くままに誠実に口説いているんでしょうが、tongue のほかに custom、fashion、manner が頻出して、フランスの厳格な習慣が呪いに。

 

あなたも私も一つの国の習慣というひ弱な囲みのなかに閉じ込められていてはいけない、二人で新しい礼儀作法をつくろう、その場にふさわしい自由な雰囲気のなかで、ハリーはそう言ってキャサリンにベイゼしました、天晴れ。

 

シェイクスピアの時代、英国にフランス趣味はありましたが、フランスには英国趣味はありませんでした。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

http://shaks.jugem.jp/

 

 

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