シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
演劇的共感−『ハムレット』1幕2場

 

いつまで続くのか10代のいじめ、小・中・高教職員の死んだほうが楽と思える過重労働、中高年を襲うストレスと孤立。

 

この事態に誰も関与しない、助けようとしない、同質性を求める現政権には現場感覚がない、苦しんでいる者に手を差し出す発想そのものがない。

 

医者や専門家に任せるしかないが、医学部入試問題、無給で働かされる研修医制度、医療現場が苦しんでいる。

 

専門家?まるでパンチの効かない繰り言評論、弱者と伴走しようとはしない。

 

処方箋を描けない私は無能だが、わずかな現場体験と観劇体験があるためにお節介をやきたがる。

 

出雲大社の巫女として念仏踊りを勧進していた阿国が京都の四条河原に小屋を建て、十字架を首に巻き「ややこをどり」、つまりかぶきをどりを興行したのはシェイクスピアの時代、没したのも同じ1616年の頃。

 

日本におけるキリスト教布教活動、おそらく宗教劇上演に阿国が影響を受け、それがいまの歌舞伎の原型を形づくった、そんな視点からのエンターテインメントを面白がり、シェイクスピアの言葉のイメージを口と耳と皮膚感覚で体感、すると他人のことに立ち入りたくなってくるのか、よせばいいのに。

 

ハムレットの 「ああ硬い硬いこの肉体、溶けて、消えてしまえばいい」のくだりを読み、ハムレットの内面を言葉と表情と仕草を想像して、その心情に手を届かせられた、そんな思い上がった気分になって、ハムレットに演劇的に共感できたからには馬鹿な真似ができるわけがないだろうと、この自己客観化は列島を覆うもやもや感を吹き飛ばしてくれるんじゃなかろうかなどと。

 

体が真に欲する共感性ある言葉を与えないでいると、萎えてくるんじゃないか、生きているのが嫌になってくるんじゃないか、自分を傷つけ、人を傷つけ、社会に牙を向けたくなるんじゃないか。

 

ハムレットが示唆しいぇいる、不満や恨み辛みの根っこにあるのは自らの不明の何物でもない、自分がつくり出す憂鬱なストーリーなのだ。

 

役者気分になって、せりふを、出てくる言葉を、そのままの順番に、イメージして読んで行けば、免疫システムが作動しそう。

 

この気づきを英語で言えばパセプションか、percertion ← perceive 、気づく、知覚する、認識する、完全に受け入れる、per は完全に、ceive は摑むの意。 

 

ハムレットをそのままそっくり摑み取ることができるならば、最早ちっとやそっとのことで病院なんかには行かないだろう、薬をもらわないだろう、サプリメントに頼らない、ヒーリングを受けない、健康グッズを買わない、この命は自分の免疫細胞で支える、意志一つでどうにかと、そんな決意も浮かんでくるのではないか。

 

立派な優等生的生き方を目指して中世人として悩み、近代人として肉体、精神、言葉の限界を超えようとしたハムレットは苦悩の淵に。

 

 

王妃 母の願いを無にしないでハムレット

 私たちとここにいて、ウィテンベルクに行かないで。

ハムレット せいぜい留まることにしましょう

 お言葉に従って。

王 それはうれしい、ありがたい、

 デンマークでは私たち同様に振舞うがよい。さあ后よ、

 ハムレットのやさしい同意を得て

 心が晴れた。光栄に応えて

 酒杯を挙げデンマーク王が乾杯するたびに、

 祝砲を雲の上まで轟かせよう、

 王の酒宴の歓声に、天もこだまして、

    地上の雷鳴となって返してくるだろう。行くぞ。退場し

   ハムレットのみ残る。

ハムレット ああこの硬い硬いこの肉体、溶けて、

 崩れて、露になってしまうといい。

 あの永遠の神の掟が

 自殺を禁じていなければ。 ああ神様、神様!

 何て煩わしく、味気なく、陳腐で、無駄なんだ

 この世のいとなみの何もかもが?

 厭だ?ああ厭だ、厭だ、雑草伸び放題の庭が

 種を落とす。汚臭を放って、はびこる

 我が物顔に。こんなことになろうとは。

 亡くなってふた月。いや、ならない。ふた月には、

 立派な王だった、言ってみれば

 ヒペリオンとサチュロスの違い。母上を愛し、

 空を吹き渡る風すら許さなかった

 母上の頬に吹きつけるのを。それがどうだ

 忘れられるか。父上の肩に寄りすがって、

    ますます愛が募るようだった

 満たされるほどに。それがひと月と経たぬうちに? 

 考えたくない。弱き者、その名は女。

 ほんの一月前、あのときの靴が擦り減りもしないうちに、

 父上の亡骸に取りすがって

 ニオベのように、涙に暮れていた。その母上が、母上が。

 (ああ天よ!道理を知らないけだものでも

 もっと長く悲しむだろうに)叔父と結婚した、

 父上の弟と。父上とは似ても似つかない、

 俺とヘラクレスほどに違う男と。ひと月も経たぬうちに? 

 空涙の塩の跡が

 赤く泣きはらした目にまだ残っているのに、

 結婚した。ああ何という慌ただしさ、

 こんなにも早く近親相姦の床に急ぐとは。

 よくない、いいことが起こるはずがない。

 だが胸が裂けても、黙っていなくては。

 

                                                 1幕2場 

 

 

Qu. Let not thy Mother lose her Prayers Hamlet:

 I prythee stay with vs, go not to Wittenberg.

Ham. I shall in all my best

 Obey you Madam.

King. Why 'tis a louing, and a faire Reply,

 Be as our selfe in Denmarke. Madam come,

 This gentle and vnforc'd accord of Hamlet

 Sits smiling to my heart; in grace whereof,

 No iocond health that Denmarke drinkes to day,

 But the great Cannon to the Clowds shall tell,

 And the Kings Rouce, the Heauens shall bruite againe,

 Respeaking earthly Thunder. Come away. Exeunt

  Manet Hamlet.    

Ham. Oh that this too too solid Flesh, would melt,

 Thaw, and resolue it selfe into a Dew:

 Or that the Euerlasting had not fixt

 His Cannon 'gainst Selfe-slaughter. O God, O God!

 How weary, stale, flat, and vnprofitable

 Seemes to me all the vses of this world? 

 Fie on't? Oh fie, fie, 'tis an vnweeded Garden

 That growes to Seed: Things rank, and grosse in Nature

 Possesse it meerely. That it should come to this: 

 But two months dead: Nay, not so much; not two,

 So excellent a King, that was to this

  Hiperion to a Satyre: so louing to my Mother,

 That he might not beteene the windes of heauen

 Visit her face too roughly. Heauen and Earth

 Must I remember: why she would hang on him,

 As if encrease of Appetite had growne

 By what it fed on; and yet within a month?  

 Let me not thinke on't: Frailty, thy name is woman.

 A little Month, or ere those shooes were old,

 With which she followed my poore Fathers body

 Like Niobe, all teares. Why she, euen she. 

  (O Heauen! A beast that wants discourse of Reason

 Would haue mourn'd longer) married with mine Vnkle,

 My Fathers Brother: but no more like my Father,

 Then I to Hercules. Within a Moneth? 

 Ere yet the salt of most vnrighteous Teares

 Had lef the flushing of her gauled eyes,

   She married. O most wicked speed, to post

 With such dexterity to Incestuous sheets:

 It is not, nor it cannot come to good.

 But breake my heart, for I must hold my tongue.

 

     grace = honor    bruite = loudly echo    Manet ( L.)= remains    resolue =

     dissolve    Cannon = law    vses = customs   meerely = entirely   

    Hiperion = the sun god  Satyre = the wine god, Bucchus 

    eteene = permit    ere = before      gauled = inflamed     post = hurry

 

 

何もかもが絶望的なストーリーにしかならない、この世は関節が外れている、ように見える。

 

けれども、ハムレットの苦悩はすべて自分を中心につくられた客体物に過ぎない、幻想に過ぎない、目に見えるものすべては仮相の世界の何物でもなく、客観的な事物と言えるものはこの世には存在しない。

 

自意識の強いハムレットはとりとめもない想像を巡らして悩み、苦しみ、死んだほうがましだと思ってしまうのです。

 

あやふやな外部客体へのかかわりを断つ涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)は、キリスト教で言う宇宙の本体と自分を同一化させて自己に執着しない生き方を説く無我(空)と同じ、この心の静まった安らぎの境地に入るなら、自ずとホメオスタシス(自律神経、内分泌線、精神のバランス)がはたらき、この身を攻撃してくる外敵に反撃して異物を体外に排出してくれるだろう。

 

薬もサプリも処方を間違えば毒にしかならない、ホメオスタシスを狂わす恐るべき副作用が待っているだけ。

 

この世に人間精神の限界を超える魔法はない、世直しの処方箋はない、医療的宗教的に伝達されるべき策もない、だから自己治癒力を高めてこの世と折り合うしかない、祈りながら、と言ってもいまある世界をそのまま受け入れるのではなく、視野を広げて大きな世界を生きる、これしかない。

 

ハムレットには複数の声があり、複数の視点があり、複数のプロットが絡まり錯綜してこちら側に伝えられる、決して小さな世界ではない。

 

呻吟する自分がいて、不満や恨み辛みを言い立てる自分がいて、しかしそれらを完全に否定し、捨て切る自分がいる。

 

人もこの世も変節して止まない主観的存在なのはぜんぶがひとつながりに繋がっているから、そんな自己認識を得れば、この世に復讐するものなどあろうはずもない。

 

多くの矛盾を抱えて死んで行ったハムレットに演劇的共感を寄せて共に一度死に切ってみたい。

 

そして蘇生しよう、蘇生できれば、そう、ボランティア活動が待っている、誰かのためにしなければならないことがある、Do for Others、そんな天来の声が聴こえてはこないか。

 

世のため人のために尽くすことが自分に尽くすことになる、それこそが新しい世界に生きる新しい自分の姿なのではないか。

 

新たな世界は容易に姿を見せないから気づかない、気づこうともしないこの身の不明は恥じて共感できるものを摑み取る、共感できるものを明確な形にする、そのために頑健な体を取り戻し、汗をかくことを歓ぶ体づくりに精出すならば、硬い肉体も緩むのではないか。

 

朝が来れば歓びに胸を開き、大空を仰ぐことができるのではないか。

 

ハムレットを伴走者として。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

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| - | 18:22 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
権力―『ジュリアス・シーザー』1幕1場

 

権力とは、ただひとつであること、一つの種類だけでほかに混じりもののないことを望み、多様性を否定するものです。

 

他人を支配し服従させようとしてはいけない、寛容と忍耐、譲歩の美徳尊重、異なる意見を聴いて敵だ味方だと峻別してはいけない。

 

日本国憲法はいきり立つことを許さない、民主主義的政治形態は強権を許さない。

 

優しさと心の穏やかさを失って居丈高になると多様性の豊かさが萎む。

 

日本は多様性に富んだ国である、北から南からやって来た人類の多様な遺伝子、春夏秋冬に見せる多様な景観美、生物多様性、そこに生み出される多様な色彩文化、与えられた列島という環境のなかで育まれた多様な日本人の知恵のあれこれ。

 

いまの日本の不幸は、これら多様性の否定、虐待、喪失にあるのではないか。

 

負けられません勝つまではの単一思考、単一的価値の押し付けが蔓延、浸透し、権威となり、服従と追随を生み、主張、自主性、独自性、意外性、異質性、奇想天外、ユニークさは排除される。

 

権力志向の強い者が勢ぞろいして非を理に言い曲げて示威する状況は、嘆かわしい、情けない。

 

ヒーローと少数エリート集団の舞台を想い起こすまでもなく、権力志向はあとを絶たない。

 

共和政下のローマでポンペイ一族を滅ぼして凱旋するシーザーを熱狂的に迎えようとする市民、いや、平民がいて、その群衆化に不安を感じるのが小数エリート派集団の元老院の貴族たちと護民官たちです。

 

彼らは民衆が興奮してシーザーを皇帝に押し上げでもしたら、自分たちの存在が脅かされると危惧するのです。

 

 

マララス 商売は何だ?はっきり言え。

靴直し 商売ですよ旦那、商売と言ったって、

 まともなもんで、いやほんと、いかれたやつの修理屋です。

フレイヴィアス どんな商売をしているんだ?分からず屋め、

 どんな商売だ?

靴直し まあまあ旦那、機嫌を悪くなさらないで。ですが

 いかれているようでしたら旦那、直して差し上げます。

マララス なんだと?俺を修理するってのか、この

 糞生意気な野郎が?

靴直し 手前は旦那、底のほうを直しますんで。

フレイヴィアス 靴直し、なのか?

靴直し その通り、食べておりますんで、錐1本で。

 別に他人様の商売や、女を突っついたりは

 しません。実のところ旦那、手前は靴の外科医なんで。

 命が怪しくなると、手前が直して差し上げる。

 旦那方が子牛のなめしをお召しになるように、

 もうみんな手前の手仕事をあてにしておりまして。

フレイヴィアス だがなぜ店にいないんだ今日は?

 なんで連中を引き連れて街をほっつき歩くんだ?

靴直し 実のところ旦那、靴を減らしてもらって、

 手前の仕事をこさえてもらおうかと。いえね旦那、

 店を休んでシーザー様を見ようと、凱旋をお祝いして。

マララス 何がお祝いだ?

 どんな戦利品を持ってくるというのだ?

 どんな捕虜をローマに連れて来るというのだ、

 戦車の飾りに縛りつけて?

 この唐変木の、石頭の、感覚なしの物にも劣る奴め。

 情知らずの、残酷なローマ人め、

 ポンペイ殿を忘れたのか?

 城壁によじ登り胸壁にかじりついて、

 塔や窓に群がったんじゃないのか?そう、煙突にまで、
 腕に子どもを抱いて、坐って

 一日中、我慢していまかいまかと待って、
 あの偉大なポンペイがローマに凱旋するのを見ようとした。 
 戦車がちらっと見えただけで、

 一斉に歓呼の声をあげたから、

 ティベール川も土手下で身を震わせた、

 お前たちの喚声がこだまして、

 両岸に響いたんじゃなかったのか?

 なのにお前たちは晴着を着てめかし込むのか?

 わざわざこの日を休みにするのか?

 シーザーの前に花を撒くのか、

 ポンペイ一族を滅ぼして凱旋するってのに? 立ち去れ、
 走って家に帰れ、跪いて、

 神々に祈って災いを留めてもらえ
 こんな恩知らずには天罰が下るぞ。

 フレイヴィアス 帰った、帰った、平民、罪滅ぼしに

 仲間の貧乏人をみんな集めろ。

 タイバーの堤に連れて行って、涙を流せ

 水路に、いま一番低い川が

 涙で一番高い岸辺に溢れるまで。

 平民すべて退場。

 

               1幕1場  

 

 

Mur. But what Trade art thou? Answer me directly.

Cob. A Trade Sir, that I hope I may vse, with a safe

 Conscience, which is indeed Sir, a Mender of bad soules.

Fla. What Trade thou knaue? Thou naughty knaue,

 what Trade?

Cobl. Nay I beseech you Sir, be not out with me: yet

 if you be out Sir, I can mend you.

Mur. What mean’st thou by that? Mend mee, thou

 sawcy Fellow?

Cob. Why sir, Cobble you.

Fla. Thou art a Cobler, art thou?

Cob. Truly sir, all that I liue by, is with the Aule: I

 meddle with no Tradesmans matters, nor womens mat-

 ters; but withal I am indeed Sir, a Surgeon to old shooes:

 when they are in great danger, I recouer them. As pro-

 per men as euer trod vpon Neats Leather, haue gone vp-

 on my handy-worke.

Fla. But wherefore art not in thy Shop to day?

 Why do'st thou leade these men about the streets?

Cob. Truly sir, to weare out their shooes, to get my

 selfe into more worke. But indeede sir, we make Holy-

 day to see Cæsar, and to reioyce in his Triumph.

Mur. Wherefore reioyce?

 What Conquest brings he home?

 What Tributaries follow him to Rome,

 To grace in Captiue bonds his Chariot Wheeles?

 You Blockes, you stones, you worse then senslesse things:

 O you hard hearts, you cruell men of Rome,

 Knew you not Pompey many a time and oft?

 Haue you climb'd vp to Walles and Battlements,

 To Towres and Windowes? Yea, to Chimney tops,

 Your Infants in your Armes, and there haue sate

 The liue-long day, with patient expectation,

 To see great Pompey passe the streets of Rome:

 And when you saw his Chariot but appeare,

 Haue you not made an Vniuersall shout,

 That Tyber trembled vnderneath her bankes

 To heare the replication of your sounds,

 Made in her Concaue Shores?

 And do you now put on your best attyre?

 And do you now cull out a Holyday?

 And do you now strew Flowers in his way,

 That comes in Triumph ouer Pompeyes blood?

 Be gone,

 Runne to your houses, fall vpon your knees,

 Pray to the Gods to intermit the plague

 That needs must light on this Ingratitude.

Fla. Go, go, good Countrymen, and for this fault

 Assemble all the poore men of your sort;

 Draw them to Tyber bankes, and weepe your teares

 Into the Channell, till the lowest streame

 Do kisse the most exalted Shores of all.

  Exeunt all the Commoners.

 

   soules  soles(足の裏) とも聴こえる  proper = fine     gone = walked     

    Tributaries = ransome payers     senslesse = inanimate     replication = echo   

    cull out = choose    blood = offspring  plague   神罰と考えられていた

 

 

マララスとフレイヴィアスは平民保護のために平民会から選出された護民官で、平民代表として貴族たちと丁々発止渡り合って、ローマの多様な価値の追求に精出さなければならない立場です。

 

ところが頭にあるのは保身、どうしたら折角得た地位・権力・名誉を保てるかだけで、選出された時点で自分の立場など忘却の彼方に。

 

肩書きが付くと人間はこうなる、豹変する、ちょろっと目立ったくらいで神通力を持つ高慢な天狗に。

 

平民に向かって居丈高に吠え立てるのは、貴族側元老議員の決定を拒否できるほどの権力を持つ人物、明日には皇帝に就くかもしれない人物に対して疑心があるから、自分たちも一端の権力者だと錯覚しているのです。

 

で、ことの成り行きを決したのは彼ら護民官たちではない、暗殺計画の首謀貴族キャシアスでもない、シーザーにとどめの一撃を加えて共和制を維持しようとしたブルータスでもない。

 

そう、個人ではない、分からず屋の、糞生意気な、唐変木の、石頭の、感覚なしの、物にも劣る情知らずの、残酷なローマ市民なのです。

 

と言っても、彼らを煽り立て暴徒化させて利を得たのは、もう一人の悪賢い個人でしたけどね。

 

古代ローマのフォルム(Forum、都市の公共広場)は、四周をバシリカ、元老院、神殿などの公共施設や列柱廊で取り囲まれるオープンスペースで、ここでブルータスがシーザー暗殺の大義を説き、市民がブルータス万歳を叫んだ、直後アントニーが熱弁をふるって市民を扇動、群集と化した市民はシーザーの遺産相続人に豹変して、ブルータスとキャシアスは逆賊の運命を転がり落ちて行くのです。

 

非暴力主義者のガンジーは言いました、自分と異なる意見を聴こうとしない不寛容は敵か味方かを選別する独裁となり、暴力化すると。

 

民主主義という蓑を被った浅はかな多数派の思惑によって物事が決まる状況は危うい、繰り返される人間の権力志向の醜態が人間の頭よりもロボットやコンピュータのほうが信用できると私たちに思わせるのです。

 

人間の未来社会の決定権をロボットやコンピュータに譲っていいのか、機械を権力者にしていいのか。

 

多数派であれ、少数派であれ、ヒーローであれ、機械であれ、疑ってかからなければなりません。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

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| - | 09:16 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
決闘の第七原因―『お気に召すまま』5幕4場

 

心を病む者は嘘をつくことがある、意識なしに話すのだから単なる嘘つきとは違う。

 

政治家は嘘をつく、企業家は嘘をつく、ビジネスマンは嘘をつく、スポーツマンは嘘をつく、彼らは単なる嘘つきにすぎない。

 

無能だから嘘をつくのではない、学識も経験もあるから嘘をつく、能ある鷹は爪を研ぐ、誤魔化しを糊塗する術を心得ているのだろう。

 

強権政治の蔓延が既存の団体、行政組織、システムを権威化し、国防、防災、教育、エネルギー政策、すべて分裂気味に推移するが、説明なし、議論は広がらず、深まらない、どころか、始まらない、たとえ議論しても煮詰まることはない。

 

いつから始まったのか官邸支配、これを支える内閣官房職員はいまや3,000人超、現政権発足当初から中枢メンバーは変わらずに機能強化に励み、ムダ金使って金欠状態、問題を持ち込まれては困る、個別の案件には応えない、震災対策と福祉対策は自助だ、共助だ、最後に公助だ、助け合いの相互扶助精神を発揮して市民総参加の協働の精神で地方創成、自治、ボランティアに精出してくれ、報酬は達成感でお願いしたい、忖度してくれないか、こういう応援歌がいまを乗り切るキーワードに。

 

そもそも市民を尊重する気などないから、信頼はゼロ状態、言葉が風化するなかで勇を鼓して非難しても馬耳東風、これではいけないと組織改革を訴えようとする者はいるが、反対なら離脱してくれと排除する、露骨極まる陰湿な無言の圧力、組織を出れば改革などできるわけがない、結局、批判を噛み殺すしかない。

 

拒絶的異論に耳をかさないとなれば議論の積み重ねはない、亀裂は深まり、分断化が進み、分裂社会になるしかない、人間関係はズタズタに、昔なら決闘か、闇討ち切り捨て御免か、ドカンと一発か。

 

そんな物騒な気配も出てきた抑制の利かない日本社会、社会的無責任が大手を振ってまかり通るなか、演説されたり記者会見されたリお詫びされたり、いと物狂おしく吹き荒ぶ秋の声、あ、そう、反応は鈍い、空虚。

 

シェイクスピアに現代への教訓を読み取ってみましょうか。

 

参加と協働の意味をシェイクスピア劇に探ればどういうことになるか。

 

当時、役者と観客の間には舞台上の暗黙の約束事、コンベンション(convention)が中世以来の慣例として残っていました。

 

con は「連れ立って」、vention は「来ること」、つまり一緒に連れ立って起こる演劇上の出来事で、この観客との間の暗黙の了解事項が劇作家と観客の信頼関係を密にしたのです。

 

グローブ座はいまのような舞台と客席が向き合う形でなく客席に向かって突き出た半野外の円形構造で、観客は舞台をぐるりと囲み、ありとあらゆる階層の人びとが桟敷に座り、あるいは平土間を動いていました。

 

知性ある観客から無知なる観客までがごった返し、こんなに多くの耳や目をどうやったら満足させられるか、ある者は遊びのために、ある者はエールを飲み木の実を齧るために、ある者は騒ぎを起こすためにやってきている、そんな観客に対する劇作家たちの不満は、シェイクスピアを除いて、さまざまに語り伝えられているところです。

 

この無差別に融合する観客に期待して作品を書いたシェイクスピアの舞台は、人種、民族、階級、職業、性、国籍、言語、宗教、政治的信条等で一方に偏ることがない、というよりできなかった、観客との協働作業を可能にする暗黙の了解事項が客席との間に共有されていたから。

 

観客との信頼醸成に記憶という目に見えない歴史的遺産がはたらいていたのです。

 

中央の切り穴からひょいと顔を出して駄洒落を進呈しまくった『マクべス』の門番がその例で、王殺しというこの世の暗黒を映し出す場にこの滑稽な男が挿入された、それは、舞台の上が天上界、舞台は現実の人間世界、舞台の下が異界、他界、地獄界という約束になっていて、門番は地獄の大魔王の子分という伝統的な喜劇的役柄を担う人物であった、観客がこのことを知っているという前提に立っていたのです。


「やけに叩くじゃねえか、地獄の門番なら鍵の回しっ放しだぜ」と聴いただけで、観客は何もない舞台を補ってあまりある地獄界を想像することができたのでした。

 

それもこれも、まあ、絵空事の世界、嘘の世界、虚構の世界と言えばその通りであるけれども、観客はシェイクスピアの虚構の世界を舞台の真実として受け止めた、多様な人物が登場し、退場し、複数の場の虚実が演出されて、舞台はスピーディーに処理される、それは嘘の連続でありながら、観客はすべてを一つの真実として想像し、シェイクスピアの言葉の魔術を舞台の現実として受け留めたのです。

 

シェイクスピア劇が一方に傾き観客をあらぬ方向へ走らせることがないのは、十方衆生へのこの信頼が断乎として劇作のベースにあったからであり、だからこそ登場人物は舞台の外に出たり、平土間に降りたり、あるいは舞台よりも一段高い桟敷に移動して観客と一緒に舞台を眺めたりできたのです。

 

無差別に融合する観客と役者の信頼関係が劇をいのちあるものに、この観客への信頼がなければ劇作家は誰をどのように楽しませたらいいか迷うだろうし、自分の作品を理解してもらえなければ観客に不満を募らせることにもなるでしょう。

 

シェイクスピアには観客への期待はあったが、他の劇作家にあったような、観客に対する不満はありませんでした。

 

どのような事情であれ抑制なく相手と対立すれば、分断が起こり、分裂状態に。

 

気に喰わないことを言われれば返したくなるのが人情であっても、信頼し合うところがあるならば、相手を傷つけない穏やかな応対になる、貴乃花引退問題なんかもそう、何やっているんですか、いまの日本相撲協会は?

 

口喧嘩になり、嘘つき呼ばわりされて、決闘に到ることもあったシェイクスピアの時代、宮廷人は無能でなく学識と経験はあったが口論となり、エスカレートして、剣で突き合う事態にもなったでしょう。

 

『お気に召すまま』の道化タッチストーンが決闘の第七原因について述べています。

 

 

ジェイキス さっきの第七原因の説明を。どういうわけで 

 決闘の根拠が第七原因になったんだ?

道化 嘘が原因、七度繰り返したんだ。(ちゃんと

 してろよオードリー)こういうわけだ。気に喰わん

 その顎髭はとある宮廷人に言ったんだ。言い返してきたよ、

 お前がどう言おうと、俺はこの形がいいんだ

 とね。これが慇懃なる口答えというやつ。そこで

 二たび返す、髭の刈りようがよくない、すると相手が言い返す

 自分の好きなように刈っているんだ。これが穏健なる毒舌。

さらに、刈りようがよくないと言うと、否定してくる。

これは、礼を失する逆ねじ。もう一度よくないと

言うと、本当のことを言っていないと返してくる。これは

勇敢なる非難。続けて、刈りようがよくないと言うと、こう

来る、嘘つきめ。拒絶的反論というやつだ。

こんな調子で間接的嘘つき呼ばわり、直接的嘘つき呼ばわりに。

ジェイキス 何度顎髭の刈りようがよくないと

 言ったんだ?

道化 間接的嘘つき呼ばわりの段階まで。

 相手も直接的には到らなかった。というわけで

 剣の長さを較べっこして、お別れ。

ジェイキス もう一度順序立てて言えるかね、嘘呼ばわりの

 段階を?

道化 そりゃあもう、口喧嘩は型通り、本にある通り。

 礼儀作法をマニュアル通りにやるのと同じ。段階を

 追って言うよ。

 第一、慇懃な口答え。第二、

 穏便な毒舌。第三、失礼な逆ねじ回答。第四、

勇敢なる非難。第五、拒絶的反論。

 第六、間接的嘘つき呼ばわり。第七、

直接的嘘つき呼ばわり。全段階決闘は避けられる、

直接的嘘つき呼ばわり以外は。

 これだって逃げられる、もしもとひと言付け加えれば。

 裁判官が7人がかりでもけりのつかなかった諍いがあったが、

 当人同士が出逢ったとき、一人が

 もしものひと言に思い至った。もしもなら、私もそうだと。

 そこで二人は握手をして、兄弟の契りを交わした。もしもは、

 比類なき仲裁役。もしもにはすぐれた品格がある。

 

                    5幕4場

 

 

Iaq. But for the seuenth cause. How did you finde

 the quarrell on the seuenth cause?

Clo. Vpon a lye, seuen times remoued : (beare your

 bodie more seeming Audry) as thus sir: I did dislike the

 cut of a certaine Courtiers beard: he sent me word, if I

 said his beard was not cut well, hee was in the minde it

 was : this is call'd the retort courteous. If I sent him

 word againe, it was not well cut, he wold send me word

 he cut it to please himselfe: this is call'd the quip modest.

 If againe, it was not well cut, he disabled my iudgment:

 this is called, the reply churlish. If againe it was not well

 cut, he would answer I spake not true : this is call'd the

 reproofe valiant. If againe, it was not well cut, he wold

 say, I lie : this is call'd the counter-checke quarrelsome :

 and so to lye circumstantiall, and the lye direct.

Iaq. And how oft did you say his beard was not well

 cut?

Clo. I durst go no further then the lye circumstantial:

 nor he durst not giue me the lye direct: and so wee mea-

 sur'd swords, and parted.

Iaq. Can you nominate in order now, the degrees of

 the lye.

Clo. O sir, we quarrel in print, by the booke: as you

 haue bookes for good manners: I will name you the de-

 grees. The first, the Retort courteous: the second, the

 Quip-modest: the third, the reply Churlish: the fourth,

 the Reproofe valiant: the fift, the Counterchecke quar-

 relsome: the sixt, the Lye with circumstance: the sea-

 uenth, the Lye direct: all these you may auoyd, but the

 Lye direct : and you may auoide that too, with an If. I

 knew when seuen Iustices could not take vp a Quarrell,

 but when the parties were met themselues, one of them

 thought but of an If; as if you saide so, then I saide so:

 and they shooke hands, and swore brothers. Your If, is

 the onely peace-maker: much vertue in if.

 

   seeming = becomingly   disabled = disparaged  counter-checke = rebuff

    circumstantiall = indirect   nominate = name   take vp = settle

 

 

間接的嘘つき呼ばわりの段階でぐっと踏み止まらなければいけません。

 

もしも連れ立って連続する流動が停止して、舞台から「明日、明日、明日、時は小刻みな足取りで一日いちにちを這うように時の記録の終わりのひと言に辿り着く」などというせりふが聴こえてきたら、観客はどう反応するだろうか。

 

その間舞台の動きはストップして、複数の舞台を目まぐるしく移動してきた観客と役者の信頼関係は崩れるのか。

 

いや、相互に信頼があるなら、観客もしばし瞑想の世界に誘われて、いまを生きる認識を得て、現実の世界から異界へ、あの世へ、ありったけの想像の羽を伸す時間となるかもしれない、マクベスを信頼して秘密の対話を交わすことになるかもしれない、相手との諍いを天上界から見降ろす視点に立つことができるならば、観客はマクベスとともに、連れ立って起こる演劇上の出来事を生きることができるのです。

 

観客への信頼が揺らいだら何事も起こり得ない、頼りになるのは観客の多様性という何物に代えがたい劇的素材であり、観客の想像力なのです。

 

シェイクスピアは多様な観客との共鳴、共振、共有できる劇行為という参加と協働の作業を通して合意形成の構築に向かったのです。

 

シェイクスピアが後年英国市民社会の神話をつくったと言われる所以です。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読
http://shaks.jugem.jp/  

 

 

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