シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
起きなさい雲雀が鳴いていますよ ―『シンベリン』2幕3場

盛唐時代の猛浩然の春眠暁を覚えずのごとくに眠い、薄目を開けて、あちこちでコジュケイが啼いているな、雨もあがったか、風も吹いていたが、おかげで満開の桜の花は散ったか、で、またうつらうつら、うつ伏せに枕抱えてあと5分夢のなかに。

 

『シンベリン』(1609)の王宮で王の先妻の娘イモジェンが眠っています、継母から毒殺されそうになるなかで。

 

クロウトンという後妻の半馬鹿王子に執拗に求婚されているのです。

 

 

Clot Winning will put any man into courage: if I could get

 this foolish Imogen, I should haue Gold enough: it's al-

 most morning, is't not?

1 Day, my Lord.

Clot. I would this Musicke would come: I am adui-

 sed to giue her Musicke a mornings, they say it will pene-

 trate. Enter Musitians.

 Come on, tune: If you can penetrate her with your fin-

 gering, so: wee'l try with tongue too: if none will do, let

 her remaine: but Ile neuer giue o're. First, a very excel-

 lent good conceyted thing; after a wonderful sweet aire,

 with admirable rich words to it, and then let her consider.

   SONG. 

  Hearke, hearke, the Larke at Heauens gate sings,

  and Phoebus gins arise,

  His Steeds to water at those Springs

  on chalic'd Flowres that lyes:

  And winking Mary-buds begin to ope their Golden eyes

  With euery thing that pretty is, my Lady sweet arise:

  Arise, arise.

 So, get you gone: if this penetrate, I will consider your

 Musicke the better: if it do not, it is a voyce in her eares

 which Horse-haires, and Calues-guts, nor the voyce of

 vnpaued Eunuch to boot, can neuer amed.

  Enter Cymbaline, and Queene.

2 Heere comes the King.

Clot. I am glad I was vp so late, for that's the reason

 I was vp so earely: he cannot choose but take this Ser-

 uice I haue done, fatherly. Good morrow to your Ma-

 iesty, and to my gracious Mother.

Cym. Attend you here the doore of our stern daughter

 Will she not forth?

Clot. I haue assayl'd her with Musickes, but she vouch-

 safes no notice.

Cym. The Exile of her Minion is too new,

 She hath not yet forgot him, some more time

 Must weare the print of his remembrance on't,

 And then she's yours.

 

  Phœbus gins = Apollo begins    voyce = vice? amed = amend

 

                                                     2.3.

 

クロウト 勝てば誰だって元気になる。結婚できれば

 あのイモジェンと、がっぽり儲かるんだが。

 もう朝、なのか?

貴族 朝です、殿下。

クロウト 楽師たちを呼んでいたんだが。勧められたんだ

 あの人に毎朝音楽をきかせろって、音楽を聴かせれば

 とろけさせられるって。楽師たち登場。

 さあ、始めてくれ。指先でとろけ

 させられたら、ああ。舌も使ってな。駄目なら、

 相変わらずってこと。だが諦めねえ。最初は、

 グッと調子のいい奴を。次は甘ったるい奴を、 

 うっとりするような歌詞付きで、後はあの人次第。    

   歌。

   ほら、ほら、雲雀が天国の門のところで鳴いています、

   フィーバス様もお目覚めですよ、

   火炎車を引く馬たちが朝露を飲んでいますよ

   花々のカップに溜まった露を。

   瞬きしてマリー・ゴールドも金の蕾を開き始めていますよ

   なにもかもがきれいな夜明け、さあお姫様起きなさい。

   起きなさい、起きなさい。

 よし、引き上げろ。これでトロリンときたら、弾むぜ

 音楽にチップを。こなかったら、あの人には雑音よ

 馬のしっぽか、仔牛の腸だ、雑音よ

 玉無しおっ立てようったって、どうなるもんでもねえ。

  シンベリンと、王妃登場。 

貴族2 王様がお見えです。  

クロウト 夜更かししてよかった、理由になっからな

 早起きしたっていう。嬉しいんじゃねえか

 朝っぱら訪ねて来てるなって、父親としては。おはよう

 陛下、それにお母様。

シン わざわざ訪ねて来たのか強情娘を

 娘はまだか?

クロウト 音楽で襲ってみましたが、手応えは

 ありません。

シン  恋人が追放になってまだ日が浅い、

 忘れられないのだろう、もう少し経てば

 あの男の記憶も消える、

 そうなればあれはお前のものだ。           

 

 

この歌はイモジェンの寝姿になんとも似つかわしい感じではあるが、朝っぱらからこんな変てこな奴にウロチョロされたら、枕を抱えてもうひと眠りとはいかないでしょうね。

 

My Lady sweet を描くときシェイクスピアは夢、希望、願望の対象となるマドンナの幻を追いかけたようです。

 

最後まで人間の愚行を暴きつつも慈しんでもきたシェイクスピアの劇作キャリアの締め括りとして、このイモジェンが登場させているのです。

 

いまはもう悲劇へと進むこともなく運命と意思の力を以て新しい命を蘇らせるべく死の向こう側をこじ開けようとしたんでしょうね、自分自身に対する、そして不条理な時代を生きる人びとに対するオマージュになっているような作品。

 

国王一座は、室内劇場ブラックフライアーズの賃借契約を取り付けて権利の七分の一を獲得、以後夏と冬に半野外劇場のグローブ座と室内劇場で交互に公演、宮廷でもかなりの演目を上演するようになっていました。

 

1609年、45歳のときに、シェイクスピアは154編のソネットを出版し、『シンベリーン』を上演し終えて、ストラットフォード・アポン・エイヴォンに全面引退したのです。 

 

早すぎる引退に思えますけどね、シェイクスピアには憔悴があったのです。

 

潮時でもあったのでしょうか、翌1610年に議会は課税問題で国王と妥協ならず解散、ペストが再蔓延してロンドンは死の様相を呈し、劇場は閉鎖となりました。

 

夢、希望、願望を追うが果たせないのです。

 

そんななかで祈りの対象であった女神を、マドンナを、イモージェンとして描きたかったのではないでしょうか、夢か現かのあわいに蘇る命の讃歌として、故郷に帰ることを決意した自分を慰労してくれるお姫様として

 

セレナーデ「起きなさい雲雀が鳴いていますよ」は『シンベリン』のなかのこの劇中歌にシューベルトが曲を付けたものです。(2017.4.6)

 

 

Web Graduate School Shaks
Shakespeare Reading Lab.
http://shaks.jugem.jp/

 

 

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