シェイクスピア朗読

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ジェシカのみだしなみ―『ヴェニスの商人』2幕3場

 

十把一からげには論じられないが、英国のEU離脱、アメリカファーストのトランプ次期大統領、フランスやドイツ、イタリアに台頭する保護主義等がヒト・カネ・モノの自由な往来に影響して、反グローバリズム、排外主義、民主主義の危機濃厚な2017年の幕開け。

 

すべては世界経済の高い成長が望めなくなった現実に向き合えずに非現実的な成長を掲げ続けようとする焦りから生まれているのでしょう。

 

こんなみだしなみであれば、正月だから笑顔でおめでとうでは始まらない。

 

季節が巡り桜の木の枝先に小さく膨らむものがあっても、私たちの住む地球社会は、温暖化、地殻変動、景気変動、何もかもがそれぞれのマナーを失い、急速に変質、液状化しつつあるのではないか。

 

政治は国家単位となり、国家間の軋轢、国内のひずみが拡大し、格差が広がり、弱者いじめ、人種差別、親子分断という問題となって顕在化してきているのではないか。

 

想起されるのが『ヴェニスの商人』のユダヤ人父娘。

 

ジェシカはキリスト教徒への復讐に燃える高利貸しの父シャイロックに見切りをつけ、騙し、白人のキリスト教徒の恋人と駆け落ちしようとしているのです。

 

ラースロットはシャイロックの召使兼道化役(Clown)です。

 

 

ジェシカ どうしてもここを出て行くのね、

 この家は地獄、でもお前という陽気な悪魔がいて

 少しは退屈を紛らしてくれたわ。

 でもお別れね、これ少しだけどとっておいて、

 それからねランスロット、夕食のとき会うはずよ

  ロレンゾーに、お前の新しいご主人様の招待席で、

 そのときにこの手紙をお渡しして、誰にも知られないように、

 じゃあね。話しているところをお父様に見られたくないの。

道化 さようなら、涙こらえ口を開けばただ涙、こんなきれいな

異教徒、こんなかわいいユダヤの娘、キリスト教徒が悪戯して

ものにしなけりゃ、手前が戴きたい。はいはいさようなら、

この阿呆の涙が男っ気を水浸しにしてしまった。

さようなら。去る。

ジェシカ さようならラーンスロット

 まあ、なんてひどい私の罪

 お父さまの子どもであることを恥じるなんて、

 でもお父さまの血を受け継いだ娘でも、

 身だしなみは違うわ。ああロレンゾー

 約束を守ってくれたら私の苦しみはこれが最後、

 キリスト教徒になって、あなたの愛する妻に。退場。

 

             2幕3場

 

 

Ies. I am sorry thou wilt leaue my Father so,

 Our house is hell, and thou a merrie diuell

 Did'st rob it of some taste of tediousnesse;

 But far thee well, there is a ducat for thee,

 And Lancelet, soone at supper shalt thou see

  Lorenzo, who is thy new Maisters guest,

 Giue him this Letter, doe it secretly,

 And so farwell: I would not haue my Father

 See me talke with thee.

Clo. Adue, teares exhibit my tongue, most beautifull

 Pagan, most sweete Iew, if a Christian doe not play the

 knaue and get thee, I am much deceiued; but adue, these

 foolish drops doe somewhat drowne my manly spirit:

 adue. Exit.

Ies. Farewell good Lancelet.

 Alacke, what hainous sinne is it in me

 To be ashamed to be my Fathers childe,

 But though I am a daughter to his blood,

 I am not to his manners: O Lorenzo,

 If thou keepe promise I shall end this strife,

 Become a Christian, and thy louing wife. Exit.

 

  manners = behavior 

 

 

最後の2行が strife / wife の rhyming couplet(対句)になってこの場が終わり、複雑な余韻を残します。

 

遥かいにしえの紀元前64年、ローマ帝国はシリアを征服してユダヤをシリアに組み入れました。

 

前37年、ヘロデがユダヤの王としてパレスチナの中心都市エルサレムを統治、ユダヤ人にローマ皇帝礼拝を強要します。

 

前7年9月15日、いや、前4年?いやいや、前2年の6月17日、正確な生年月日は分らぬままに、イエスキリストがマリアとヨセフの長男としてベツレヘムの馬小屋で生まれました。

 

ヘロデはユダヤの救世主誕生の噂を耳にするや子殺しを画策、恐れた両親はエジプトに逃れ、ヘロデの死と同時にナザレ村に帰ってきて、イエスはそこで育ちました。

 

紀元30年4月7日、ゴルゴタの丘で青年イエスは公開処刑されますが、生前の予告通り3日目に甦り、その後40日間弟子たちを導いたと言い伝えられています。

 

132〜5年、ユダヤ人はローマ軍に必死の抵抗を続けますが、鎮圧され、土地を追われ、これをもってユダヤ独立戦争が終結しました。

 

ローマ皇帝はユダヤという属州の名称そのものを廃止してシリア・パレスチナ州に変名、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教それぞれにとっての聖地エルサレムは完全な異教の町とされ、その門をくぐったユダヤ人は処刑され、帝国全土を通じてユダヤ人弾圧が当たり前のことになったのです。

 

1492年、スペイン女王イサベル1世の後援を得てコロンブスがバハマに到達、以後ヴェニスは東西を結ぶ国際貿易都市に発展しましたが、同時にスペインからはユダヤ人が追放されました。

 

19世紀後半、第1次世界大戦中にアラブ・イスラエル紛争が勃発します。

 

1948年、パレスティナにユダヤ人の国イスラエルが建国されましたが、そこで生まれ育ったパレスティナ人は国外へ追放されて大量難民に。

 

思い出されるのが、ヒトラーがオランダ、ポーランド、フランスに侵攻する混乱のさなか、バルト3国の一つリトアニアで5,000人のユダヤ人を、本国の許可なしに、シベリア、日本経由で救った杉原千畝(ちうね)領事の人道的行為。

 

私たちはいまユダヤ人を歴史と文化を共有する一つの民族としては分類せず、民族独自の国家としてイスラエルがあることと世界に1,500万弱のユダヤ人が生活していることを知るのみです。

 

全財産を巻き上げられたあげくキリスト教に改宗させられるシャイロックは、このような歴史的現実を背負ってこの新しい年にどのような姿で立ち現れるのか。

 

父親に愛想をつかし、父が貯めた金や宝石の入った箱を盗み出して白人のキリスト教徒と結婚するユダヤの娘ジェシカの行く末は。

 

いつの世も追われるのはユダヤ人、だけではない。

 

生まれ育った福島の地から追われた子どもたちがこの日本列島で命を損なうほどのいじめに遭っているという。

 

不寛容な社会がさらに不寛容になれば、排除の論理が正当化され、人の心はさらに分断されるでしょう。

 

地球も人もひび割れる年を迎えて、私たちはそれぞれにどのようにみだしなみを整えることができるか。

 

何が起こるか知れたものではない、何が起こってもおかしくない、でもね、右往左往しないで、心だけは整えることを忘れてはいけないのです。

 

改革なんて言葉が聴こえてきますけどね、まともな心の状態に戻すだけの話なんですよ。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読 

http://shaks.jugem.jp

 

 

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