シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
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エイヴォン川の白鳥

 

もう節分の季節、でも、まだ外気は冷たく、寒いなかでの散歩のし過ぎは足腰を痛めそう。

 

冷えは身体によくない、熱を逃がさないようにと余分なエネルギーを使うので全身が疲労し、血管は細く、血行が悪くなり、免疫力低下を招きます。

 

でもね、春はもうそこに、白鳥はシベリアに飛び立ち、小鳥たちが陽気に囀り始めるでしょう。

 

 Spring, the  sweet Spring, is the year's pleasant king;

   Then blooms each thing, then maids dance in a ring,

   Cold doth not sting,  the pretty birds do song,

       Cuckoo, jug-jug, pu-we, to-witta-woo!

 

   The palm and may make country houses gay,

   Lambs frisk and play, the sheperds pipe all day,

   And we hear aye birds tune this merry lay,

       Cuckoo, jug-jug, pu-we, to-witta-woo!

 

   The fields breathe sweet, the daisies kiss our feet,

   Young lovers meet, old wives a-sunning sit,

   In every street these tunes our ears do greet,

     Cuckoo, jug-jug, pu-we, to-witta-woo!

           Spring! the sweet Spring!

 

 春だ、楽しい春だ、1年中で一番気持ちのいい季節。

 花が咲き、女の子たちが輪になって踊り、

 寒さも 肌を刺さず、小鳥たちがうたい出す、

  クック―、ジャグジャグ、ピューウィ、トゥウィッタウ―!

 

 柳が芽を吹き田舎家が歓ぶ、

 子ヤギが飛び跳ね、羊飼いが一日中笛を吹き鳴らす、

 聴こえるね小鳥たちの楽しい歌声が、

  クック―、ジャグジャグ、ピューウィ、トゥウィッタウ―!

 

 原っぱは匂って、デイジーが足に口づけする、

 恋人たちは逢引し、お婆ちゃんたちは日向ぼっこ、

 通りを歩けばあの歌声が、

  クック―、ジャグジャグ、ピューウィ、トゥウィッタウ―!

    春だ!楽しい春だ!

 

ナッシュ(Thomas Nasshe, 1567-1601 )の喜劇『夏の遺言』(Summer's Testament, 1600 )のなかの歌で、カッコウ、ナイチンゲール、タゲリ、そのほか何やらの鳥が囀っています。

 

激しく穏やかに重く軽やかに囀っていたシェイクスピアが没して7年後の1623年、刊行されたファーストフォリオの扉に「エイヴォン川の白鳥」というシェイクスピアへの讃辞が掲げられました。

 

称えたのはシェイクスピア没年の1616年に英国初の桂冠詩人(poet laureate)となったシェイクスピアのライバル友人のベン・ジョンソン(Benjamin Jonson、1572-1637)、彼は「シェイクスピアは一つの時代の人ではなく、あらゆる時代の人である」(He was not of an age, but for all time)と持ち上げました。

 

実際シェイクスピアほど普遍性と可変性に満ちた作家はいませんが、ジョンソンにはもう一面のシェイクスピア評価が。

 

絶大な讃辞を呈する一方で、1行の無駄もないと称賛されるシェイクスピアのせりふは「1000行削ってもよかった」、「溢れるほどの才能があったが抑制が効かなかった」、「ラテン語もギリシア語も知らなかった」とケチをつけているのです。

 

シェイクスピアの天賦の才能に対して複雑な心境だったのか、自分は天才に近い秀才だがシェイクスピアは天才だと思うと穏やかでない、そんな思いが心底讃辞を呈することができなかった理由?自分は役不足か、相手の不足を見つけて自分と同等、いや自分より劣っていると思いたい、そんな了見。

 

となると、エイヴォン川の白鳥などという讃辞も出来損ないの比喩ではないのかと勘繰りたくなってきます。

 

シェイクスピアは、狭量、猜疑心から脱出できないハムレット、オセロ、レオンティーズ、そしてリアを描きました。

 

彼らの自己肯定感は強い、けれども、自己否定も熾烈を極めました。

 

そして、最後は、自他を顧みて決断、大いなるものの判断に委ねようと。

 

牧水の歌に、白鳥は悲しからずや、空の青、海の青にも染まず 漂う〜がありますが、白鳥は空にもなり海にもなって新しい大きな命に達したいと願うのだけれども、自己を消すことができない、純粋、孤高という名の孤立を克服できない、空の青、海の青にも染まって一つになりたいができない、真っ白すぎる、だから白鳥は悲しい。

 

シェイクスピアは、人間が幻想を生み変貌する素地を掘り起こして、ばらばらになったものを繋ぎ合わせ、一つの大きな命に橋渡ししようとしました。

 

永続する世界と限りある煩悩の世界、目に見える自然界と目に見えない超自然界、理屈で割り切ろうとしても割り切れない理不尽な世界、現実の世界が融合するロマンの世界、遠く離れているものの連結、不一致の一致、不調和の調和、結び付いているものの切り離しも、劇作家はそこを見据えて言語化したのです。

 

そんな劇作に駆り立てる詩想をベーコン(Francis  Bacon, 1561-1626)は「シェイクスピアの芸術美はすぐれている、そのすぐれた均整には何かしら奇異なもの(strangeness)がある」と評しました。

 

つまりグロテスクの手法、この世を美しく、滑稽に、神秘的に、多元的に生み出すアイロニーによる言葉の魔術師、これこそ腑に落ちる褒め言葉というものではないのか、讃辞として。

 

逸脱行為もその阿呆ぶりと狂気を懲罰として滑稽化して笑いのめし、観客の社会への柔軟な対応力を回復しようとしました。

 

たとえばフォールスタッフ、王を演じて自分を笑いの対象にして、自分の未熟さ、過ち、浅はかさ、愚かさを自嘲させると同時に、鋭い風刺力をもって自己客観化する度量の深さを示しました。

 

フォールスタッフが最後に拒絶されるのは、自己を見る目を失い、無謬論や全能信念に陥って盲目となり、この世の舞台で役を演じ分けて生きて行けなくなったからです。

 

シェイクスピアが帰依するのは唯一 神 God である、白鳥は無垢純白の詩人という純粋性を意味する、神は白鳥である、ジョンソンがシェイクスピアをそのように見ていたとすればどうなのか。

 

無節操が寛容と誤認され、独善的排他的な不寛容が純粋と誤認されるいまの社会では、純粋性の称揚は、孤高、頑迷、狭隘、独善、排他、不寛容ということにも。

 

エイヴォン川の白鳥は、純粋性を保持しつつも排他的独善性に陥らないことの象徴として輝かなければならないでしょう。

 

「存在することは変化することであり、変化することは成熟することである、成熟することは無限に自分自身を創造することである」とフランスの哲学者ベルグソン(Henry Louis Bergson, 1859-1941)は言いました。

 

数えたことはありませんが、シェイクスピアはイニシャルGの 神でなくgods  を多用した、そう、ギリシアの神々、日本の八百万の神々の gods を 。

 

World-wide に付き合い、 World-deep に成熟し、なお可変性を感じさせる存在であり続けたいと願ったシェイクスピアは、時代が変わり、言葉が変わっても、変化し、成熟し、成長する多元的存在であり続けるのではないでしょうか。

 

生きて行く上で財産になるのは体験です、生まれてから現在に至るまでのあらゆる体験がすべて潜在脳に蓄積されます、目にしたり耳にしたり嗅いだり触ったり味わったりする五感の記憶が潜在脳に全員集合、集積される、そこになんとか手を届かせて、十方衆生を観客として言葉を紡ぎ出そうとした、それがシェイクスピア。

 

見誤ってはいけません、時代を超えて生き続けるシェイクスピアの純粋性、無垢、寛容、節度は変化し、成熟し、無限に広がる多様性ある力強い繁殖性と持続性を保ち続けることでしょう。

 

 

シェイクスピア朗読教室 

http://shaks.jugem.jp

 

 

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