シェイクスピア朗読

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NO ONE WILL BE LEFT BEHIND―『リチャード3世』3幕1場

 

社会の関心が低く、見逃されていて、民間では事業性がなく、ニュース性もなく、人の目に触れる機会のない貧困と教育格差の問題が前文科省事務次官によってクローズアップされました。

 

女性の貧困率、とりわけ配偶者と離死別した女性の貧困率はひどすぎる、母親の苦悩を見て子どもが意欲を失くす、で、子どもの貧困率は7人に1人、一人親、生活保護世帯を問わず、この国の母子の生活が成り立っていない、そんな事情を抱える子どもたちの受け皿がきちんとできていない。

 

子どもたちの不安気な顔がミレー(John Everett Millais, 1829-96)の描いた油彩画「ロンドン塔幽閉の王子」(The Princes in the Tower)の表情と重なります。

 

1878年にロイヤル・アカデミーに展示されたこの人物画は、シェイクスピアの『リチャード3世』に登場する二人の歴史上の王子、1483年に父エドワード4世を12歳で継いだ王子エドワード5世とその弟のヨーク公リチャードを描いたもので、二人は叔父グロスター公リチャードの命令でロンドン塔で暗殺されたと言われています。

 

ミレーは次の場面からインスピレーションを得、画面全体を暗く、背景に左方から右上に向かう階段を置き、二人の大きく見開かれた不安げな目と握り合う手を描いたのでした。

 

 

王子 みなさん、できるだけ急いで。

 あの、グロスター叔父様、弟が来たら、

 どこにいればいいんですか、戴冠式まで?

グロースター 王の身に一番ふさわしいところ。

 どこと言われれば、ここ一両日は

 ロンドン塔にお泊りなさい。

 それから後はどこなりと、お好きなところに

 健康のためでも、気晴らしのためでも。

王子 ロンドン塔は厭です、あそこだけは。

 ジュリアス・シーザーがあそこを造った、のでしょ?

バッキンガム さよう、殿下、最初は、

  その後、代々手を加えられました。

王子 記録に残っているんですか?それとも記憶の

  言い伝え、彼が建てたっていう?

バッキンガム 記録に残っています、殿下。

王子 でも、どうなの、記録は残っていなくても、

 本当のことは代々伝えられて、

 後の世まで生き延びるのでは、

 子から孫へ最後の審判の日まで。

グロスター 小賢しいガキは、って諺にあるな、

  長生きしない。

王子 何か、叔父様?

グロスター いや、記録になくても、名声は長生きする。

  こうして、道徳劇のヴァイスのように、悪党は

  一つの単語に二つの意味を盛り込む。

王子 ジュリアス・シーザーは有名ですね、

 武勇が知力を飾って、

 知力のために、武勇が後の世まで生き長らえた。

 死神も征服者を征服できない、

 いまも名声は生きている、生きていなくても。

 あのね、バッキンガム卿?

バッキンガム 何か、殿下?

王子 大人になるまで生きていたら、

  昔のフランスに対する権利を取り戻したい、

  でなきゃ一兵卒として死ぬ、王として生き長らえるよりは。

グロスター 夏は短し春早ければ。

  幼いヨークとヘイスティングズ、枢機卿登場。

バッキンガム おおいいところに、来られた

  ヨーク公が。

王子 ヨーク公リチャード、元気かい

  お前は?

ヨーク はい、陛下、そう呼ばなければいけないんですね。

王子 そうなんだよ、お前、悲しいけど、お互いにね。

  亡くなったばかりで、王様はまだ生きておられるみたい、

  亡くなられて王の威厳はなくなったけど。

グロスター お元気ですかな、いとこの、ヨーク公?

ヨーク はい、叔父様。ああそうだ叔父様、

 仰いましたよね、雑草は伸びが早いって。

 王子様、私の兄は、私よりずっと早く伸びました。

グロスター なるほど、仰せの通り。

ヨーク それならお兄様は雑草?

グロスター おおいとこ殿、まさかそんなことは。

ヨーク じゃあ叔父様はお兄様をひいきにしているんだ、私より。

グロスター お兄様は国王としてこの叔父に命令できる、

 けれどもヨーク公は私と普通のお付き合い、親戚として。

ヨーク お願い、叔父様、その短剣を下さい。

グロスター この短剣を、おチビさん?喜んで。

王子 物乞いになったの、お前は?

ヨーク 人の好い叔父様だから、下さるに決まっている、   

 つまらないものだから、あげてもちっとも惜しくない。

グロスター もっと大きなものを、差し上げましょうか。

ヨーク もっと大きなもの?ああ、それならその剣を。

グロスター はい、いとこ殿、軽ければ。

ヨーク ああそれでわかった、軽いものしかくださらないんだ、

 重いものだと厭だと仰る。

グロスター ヨーク殿にはいかにも重すぎる。

ヨーク 私は平気、もっと重くても。

グロスター ほう、どうしてもこの剣が欲しいと、おチビさん?

ヨーク 欲しいお礼を言いたいから、同じ、同じように、叔父様が

 私を呼んだように。

グロスター どのように?

ヨーク チビッとありがとう。

王子 ヨークはいつもひねくれたことばかり言って。

 叔父様、恨まないで。

ヨーク 後ろに抱くならいいんだ、おんぶしてもらえて。

 叔父様、お兄様は私たちをからかっているんです、

  私はチビで、猿みたいだから、
  叔父様におんぶしてもらえって。

バッキンガム なんとまあ鋭い機知を。

 叔父にあてつけながら、

 自分の悪口を言って毒を薄めている。 

 途方もない才知、この年で、たいしたもんだ。

グロスター では、いらしていただきましょうか?

 手前と、いとこのバッキンガム卿は、

 母上様のところへ惨状して、おいでを願ってきます。

  ロンドン塔のほうへ、ご挨拶をと。

ヨーク え、ロンドン塔へ行くの、お兄様?

王子 摂政の叔父様がそうするようにって。

ヨーク あの塔じゃぐっすり眠れそうにない。

グロスター ほう、何が怖いのかな?

ヨーク 何がって、クラレンス叔父様の幽霊だよ。

 お婆様から聞いたんだあそこで殺されたって。

王子 死んだ叔父様など怖くないよ。

グロスター 生きている叔父様も怖くなんか、ないだろう。

王子 叔父様たちが生きていたら、怖がる必要はないけど。

   じゃあ行こうかヨーク、心は重いけど

   叔父様たちのことを考えながら、ロンドン塔へ。

 

                                                              3幕1場

 

 

Prince. Good Lords, make all the speedie hast you may.

 Say, Vnckle Glocester, if our Brother come,

 Where shall we soiourne, till our Coronation?

Glo. Where it think'st best vnto your Royall selfe.

 If I may counsaile you, some day or two

 Your Highnesse shall repose you at the Tower:

 Then where you please, and shall be thought most fit

 For your best health, and recreation.

Prince. I doe not like the Tower, of any place:

 Did Iulius Cæsar build that place, my Lord?

Buck. He did, my gracious Lord, begin that place,

 Which since, succeeding Ages haue re-edify'd.

Prince. Is it vpon record? or else reported

 Successiuely from age to age, he built it?

Buck. Vpon record, my gracious Lord.

Prince. But say, my Lord, it were not registred,

 Me thinkes the truth should liue from age to age,

 As 'twere retayl'd to all posteritie,

 Euen to the generall ending day.

Glo. So wise, so young, they say doe neuer liue long.

Prince. What say you, Vnckle?

Glo. I say, without Characters, Fame liues long.

 Thus, like the formall Vice, Iniquitie,

 I morallize two meanings in one word.

Prince. That Iulius Cæsar was a famous man,

 With what his Valour did enrich his Wit,

 His Wit set downe, to make his Valour liue:

 Death makes no Conquest of his Conqueror,

 For now he liues in Fame, though not in Life.

 Ile tell you what, my Cousin Buckingham.

Buck. What, my gracious Lord?

Prince. And if I liue vntill I be a man,

 Ile win our ancient Right in France againe,

 Or dye a Souldier, as I liu'd a King.

Glo. Short Summers lightly haue a forward Spring.

 Enter young Yorke, Hastings, and Cardinall.

Buck. Now in good time, heere comes the Duke of

 Yorke.

Prince. Richard of Yorke, how fares our Noble Bro-

 ther?

Yorke. Well, my deare Lord, so must I call you now.

Prince. I, Brother, to our griefe, as it is yours:

 Too late he dy'd, that might haue kept that Title,

 Which by his death hath lost much Maiestie.

Glo. How fares our Cousin, Noble Lord of Yorke?

Yorke. I thanke you, gentle Vnckle. O my Lord,

 You said, that idle Weeds are fast in growth:

 The Prince, my Brother, hath out-growne me farre.

Glo. He hath, my Lord.

Yorke. And therefore is he idle?

Glo. Oh my faire Cousin, I must not say so.

Yorke. Then he is more beholding to you, then I.

Glo. He may command me as my Soueraigne,

 But you haue power in me, as in a Kinsman.

Yorke. I pray you, Vnckle, giue me this Dagger.

Glo. My Dagger, little Cousin? with all my heart.

Prince. A Begger, Brother?

Yorke. Of my kind Vnckle, that I know will giue,

 And being but a Toy, which is no griefe to giue.

Glo. A greater gift then that, Ile giue my Cousin.

Yorke. A greater gift? O, that's the Sword to it.

Glo. I, gentle Cousin, were it light enough.

Yorke. O then I see, you will part but with light gifts,

 In weightier things you'le say a Begger nay.

Glo. It is too weightie for your Grace to weare.

Yorke. I weigh it lightly, were it heauier.

Glo. What, would you haue my Weapon, little Lord?

Yorke. I would that I might thanke you, as, as, you

 call me.

Glo. How?

Yorke. Little.

Prince. My Lord of Yorke will still be crosse in talke:

Vnckle, your Grace knowes how to beare with him.

Yorke. You meane to beare me, not to beare with me:

 Vnckle, my Brother mockes both you and me,

 Because that I am little, like an Ape,

 He thinkes that you should beare me on your shoulders.

Buck. With what a sharpe prouided wit he reasons:

 To mittigate the scorne he giues his Vnckle,

 He prettily and aptly taunts himselfe:

 So cunning, and so young, is wonderfull.

Glo. My Lord, wilt please you passe along?

 My selfe, and my good Cousin Buckingham,

 Will to your Mother, to entreat of her

 To meet you at the Tower, and welcome you.

Yorke. What, will you goe vnto the Tower, my Lord?

Prince. My Lord Protector will haue it so.

Yorke. I shall not sleepe in quiet at the Tower.

Yorke. Marry, my Vnckle Clarence angry Ghost:

 My Grandam told me he was murther'd there.

Prince. I feare no Vnckles dead.

Glo. Nor none that liue, I hope.

Prince. And if they liue, I hope I need not feare.

 But come my Lord: and with a heauie heart,

 Thinking on them, goe I vnto the Tower.

 

  soiourne = stay   re-edify'd = built further    registred = documented

  retayl'd = related orally   Characters = Writing  late = recently  

    idle = useless    crosse = perverse, quarrelsome    your shoulders

    グロスターの背はhunchback、カーニバルでは道化が肩に背負った

    サドルに猿を乗せていた。 wonderfull = a cause of wonder

 

 

何の責任もないのに「もう駄目かな」、「あきらめるしかないかな」と自己肯定感を喪失する子どもたちがいる、彼らは何の罪もないのにロンドン塔に閉じ込めれた二人の王子のように今日明日が不安でたまらない、親の事情、社会の事情、政治の事情によって貧富の差が拡がり、子どもの多くが泣いている、年に350人を超える中高生が自殺している、この国の教育が機能していない、経済協力開発機構(OECD)の統計やGDPに占めるわが国の公教育支出の割合は目を覆うばかりです。

 

2015年9月の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)があります、貧困や教育格差の解消、男女平等、環境、インフラ整備、経済成長と雇用、気候変動など17分野、169のターゲットを盛り込んだ幅広い課題に国際社会全体で取り組もうと設定されました、2030年の目標達成を目指して誰一人取り残さない(NO ONE WILL BE LEFT BEHIND)というメッセージが発信され、わが国は1千億円を上回る支援を行なうと表明。

 

それいいんだけれども、日本の今の政権は子どもたちの置かれている状況をどこまで把握しているのか、生活支援、学習支援を真剣に考えたことがあるのか、時の政権体質に左右されない教育権というものの存在に思いが及ぶのか、権力を志向する者は王位継承権者の王子なんかに負けるわけにはいかないと幼い二人の王子を殺してしまいました。

 

ピコ太郎さんが作成したPPAPの替え歌動画が途上国だけでなく日本国内の格差是正と貧困解消、不安に駆られる子どもたちへの関心を喚起してくれていますが、こういうまともなPR活動が前面に出て来ないのがいまの日本の政官腐れ縁の状況をよく表しているのではないか。

 

NO ONE WILL BE LEFT BEHIND、子どもたちを放置しない、一人ぼっちにしない、不安を一掃する、政治も教育もこうでなければなりません。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読                  

http://shaks.jugem.jp/

 

 

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