シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
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読まれるシェイクスピア

 

 

王政復古によってシェイクスピア劇は復活しましたが、すっかり様変わりしてしまいました

 

作者自身の意図を純粋なかたちで再現しようとか、偶然性に満ちた猥雑で侵犯性の強い劇をそのまま再生させようとか、観客と同じ空間を共有するという演出などからは程遠いものになりました。

 

高い教育を受けて財を成した新興市民層が社会の中枢権力を握り始めたことと関係します。

 

シェイクスピアが彼ら中産階級の「教養」というあたりで合理的に再編成されたのです。

 

当時の文学者たちが改作テクストの横行を許したのは、この時期の中産階級読者の知的レベルに合わせ、のし上がってきた出版資本主義がこれを後押ししたのです。

 

こうして、読まれるものとしてのシェイクスピアが出現し、実際に劇場で上演されるシェイクスピアとの差は広がる一方となりました。

 

上演されたシェイクスピアに目を向けると、1741年にリチャード3世を演じて評価を高め、後にドルーリー・レイン劇場の経営を一手に握ったギャリック(David Garrick, 1717−79)と、1814年にシャイロック役で熱狂的な評価を得たキーン(Edmund Kean, 1787-1833)がいます。

 

詩人コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge,1772-1834)がキーンを評して、稲妻の閃きでシェイクスピアを読むがごとし、つまり、シャイロックのユダヤ人差別に対する恨み辛みの声と攻撃的な動きはさながら読むがごとき演技であったと言ったのです。

 

18世紀のシェイクスピアがいかに「読まれるシェイクスピア」として、新聞、雜誌、小説、エッセイ等の流行のなかに埋没していたかが分かります。

 

ついでに書き添えておきましょう。

 

『ヴェニスの商人』は4組のカップルのそれぞれの友愛、親子愛、恋愛、結婚等を主題とする愛の四重奏とでも言うべき喜劇ですが、ギャリック、キーン以来、シャイロックをいかに演じるかで「シェイクスピア役者」と称されるようになったために、作品は歪められ、歪みはいまも是正されないままにシャイロック劇に。

 

シェイクスピア役者たちの上演は時代考証に忠実で、エリザベス朝の衣装や装置を大掛かりに使ったものが多く、その分シェイクスピアのテクストは大幅にカットされたり変更されたりしました。

 

ギャリックは自由気ままにシェイクスピアの作品を翻案し、『ハムレット』については、あの高貴な芝居をがらくたまみれの第5幕から救わずに舞台を離れることはできないなどと言い、墓掘りの冗談、オズリックの場、フェンシングの試合は不要だからと削ってしまったのです。

 

そんなこんなの邪道も含めて、時代の一つの習慣としてシェイクスピアに読み耽けることが流行して、シェイクスピアの神格化を促す事態となったのです。

 

何をか言わんや、劇的思考力の破壞が起こったのです。

 

シェイクスピアを自分に都合のいいように読むことで満足するのであれば、五感を揺さぶるエンターテインメントを楽しみましょうどころの話ではなくなってくる。

 

シェイクスピアを読んで教養が高まった気分に、自分の頭で知的論理的に整理して心を滿たしているに過ぎない。

 

この自己満足の傾向はシェイクスピアのソネットについても言えることで、ゴシップまがいの解剖分析などという手法がシェイクスピアの詩理解に通用するはずもなく、この手の読む態度がいまもシェイクスピアの詩の品格と詩人シェイクスピアの栄誉を傷つけ続けています。

 

詩歌の美など何一つ感じられないにもかかわらず、詩人を自分自身の標準にまで引き下げることほど傲慢不遜、無知蒙昧、無教養、唾棄すべき人間を私は知らない。

 

詩は神仏の御胸に宿るもの、詩歌より受ける彼または彼女の声は宇宙に響き渡る楽の音に他ならない。

 

天地万物こぞって詩という天来の声を賞め称えなければなりません。

 

詩は天上の言語なのであり、その美しい声のなかに私たちは喜びのプロフェシーを全身に感じ取るのです。

 

その後、読むシェイクスピアの神格化現象は西ヨーロッ パ全般に拡がりました。

 

ドイツではレッシングやゲーテがシェイクスピアを論じ、フランスではヴォルテール、スタンダール、ヴィクトル・ユーゴーがグロテスク(grotesque、人間を超越した絶対者が意味をなさない世界を曲線模様などで描いた)の劇作家としてシェイクスピアを称えました。

 

けれども、それぞれの国における中産階級の勃興とナショナリズムの発展を背景としてシェイクスピアの換骨奪胎の悲劇が続いたことは言うまでもありません。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読                

http://shaks.jugem.jp

 

 

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