シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
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鳴かぬ蛍が身を焦がす

   

 

ジャージャージャー、分かるよ、いつまでもアジアジーよね。

 

ミーンミンミンミーン、翅をこすり合わせてよくこんな音を、何?民が?みんな?どうしたって?

 

ツクツクホーシツクツクホーシ、あ、うん、奉仕するのも尽きたってか、だよな、分かるぜ。

 

ウンヨースウンヨース、運用す?何を?

 

カーナカナカナカナ、ああ、寂しいじゃないの、夏も終わり。

 

ヒグラシの鳴き声とともに聴こえてきた衆院解散、仕事人内閣が何も仕事していないのに、モリカケ問題の説明もせずに、国会審議を拒否して、こんなわけの分からない解散があるか、英国ではこんなことはしない、政治の私物化、解散権の乱用、弾道ミサイル暴発解散じゃないの。

 

鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす、口に出す者よりも口に出さない者のほうが心中の思いは切なるものがある。

 

ジョン・ウェイン監督・製作・主演の『遥かなるアラモ』(The Green Leaves of Summer、1960)のBM、1836年にメキシコの独裁者の圧制に反抗してテキサスのアラモ砦に立てこもったデイビー・クロケット率いるテキサス独立義勇軍勇士185人、31日間にわたって包囲攻撃するメキシコ軍と壮絶な戦いを繰り広げた兵士が、青葉の広がる平原に目をやり、鳴かぬ蛍に。

 

 A time to be reapin', a time to be sowin'

 The green leaves of Summer are callin' me home
 'Twas so good to be young then, in the season of plenty
 When the catfish were jumpin' as high as the sky
 

 A time just for plantin', a time just for ploughin'
 A time to be courtin' a girl of your own
 'Twas so good to be young then, to be close to the earth
 And stand by your wife at the moment of birth
 

 A time just for planting and the time just for ploughing
 A time just for livin', a place for to die
 'Twas so good to be young then, to be close to the earth
 Now the green leaves of summer are calling me home
 

 刈り取る頃、種を撒く頃だ
 夏の青葉を見るとふるさとを思い出す
 あの頃は若かった、一杯収穫があった
 ナマズが空高く跳ねていた
 

 耕す頃、苗を植える頃だ
 好きな娘を口説いた
 あの頃は若かった、泥まみれだった
 女房のお産に立ち合った
 

 耕して苗を植える頃だ

 必死に仕事をした、死に場所だった

 あの頃は若かった、泥まみれだった

 夏の青葉を見るとふるさとを思い出す

 

ヴィクトリア王朝時代になると、シェイクスピアを上演する劇場は、上演も、背景も、みんな鳴く蝉になってしまって、何をやらかすことやら。

 

上演用台本は役者の演技を目立たせるために独白をカット、傍白もカット、『アントニーとクレオパトラ』の海戦場面はスピーディーに処理しなければならないのに、リアル過ぎる舞台装置、アクションを重視してペースは乱れ、凝った背景を転換するたびに上演は度々中断したようです。

 

さて、そうなると、観客が上演に耐えられる長さに上演時間を調整しなければならない、で、せりふはさらにカットされ、シェイクスピア劇はカットなしでは上演できないという原則が確立しまった。

 

そんななかで、サラ・シドンズ(Sarah Siddons,1755-1831)とその弟ジョン・ケンブル(John Philip Kemble,1757—1823)が台頭、ケンブルはコリオレーナスが最大の当たり役となって、さらに姉と『マクベス』を朗詠調で演じて、シェイクスピア役者に。


シャイロックを人間味溢れる人物として演じた最初の役者がエドマンド・キーン(Edmund Kean, 1789-1833)でした。

 

彼は喜劇の一部をクローズアップすれば悲劇になることを実証してみせ、以後『ヴェニスの商人』はシャイロックの悲劇として演じられるようになりました。

 

この作品が友愛と恋愛を描く弦楽四重奏風の喜劇として上演された例を私は知りません。

 

アーヴィング(Sir Henry Irving, 1838-1905)もシャイロックが当たり役となり、エレン・テリー(Ellen Terry,1847-1928)とともに額縁舞台、凝った舞台背景、華麗な装置、カットされた台本によって演じ、エレンがその相手役を務めて、時代の嗜好に合わせて耳でなく目に訴えて人気を博し、アーヴィングは役者として初のサー(knight)の称号を、エレンはデイム(Dame、knight に叙せられた女性の敬称)の称号を得ました。

 

二人を批判する者も少人数ながらいたらしく、原典、突き出し舞台、背景のないスピーディーな場面転換に回帰しようという動きも起こりましたが、上演の主流はあくまで歴史に忠実な衣装やセットを用いて絵画的効果を追求、つまり見せて楽しませる芝居というものでした。

 

シェイクスピア崇拝を生み出したのが彼ら役者とロマン主義文学者たちです。

 

見せる芝居と崇拝批評のおかげで、シェイクスピアは書斎で読まれ啓蒙されるものとなって、20 世紀の舞台に大きな影響を及ぼすことになりました。

 

影響ということでもう一例、英国によるインドやカリブ海諸国、アフリカの支配が確立したとき、植民地における言語教育を根幹で支えたのがシェイクスピア劇です。

 

シェイクスピアによる英語教育のなかから素養に優れた現地人エリート官僚が育ち、ポストコロニアルの時代になって英国本国の言語文化芸術の中核を担うことになたのです。

 

彼らの活躍ぶりで印象として残ったのが、ストラトフォードのスワン座で観た『タイタス・アンドロ二カス』のアーロン役、漆黒の肌、せりふ、動きです。

 

考えてもみていただきたい、母語と文化の伝統を踏みにじられ、宗主国英国の言語、すなわちモダーン・イングリッシュとしてのシェイクスピア英語で自らを語り表現するしかなかった人びとの苦悩を、そして押し付けられた異言語をむしろ積極的に自己表現の武器に転じさせた彼らの苦闘と栄光を。

 

彼ら役者は、シェイクスピアを植民地主義を延命させるものとして糾弾しながら、シェイクスピアの世界を新たな命の源泉として、生き延びる手段として、自らを変革させる境界侵犯に挑戦したのです。

 

よく分からないことばかり起こるこの世にあって、彼らのシェイクスピア言語の誇りやかな血肉化だけは痛切に私の胸を打ちます。

 

人は母語であれ異言語であれ、言葉で新たな命を呼び起こして自己表現せざるを得ない、言葉が命だからです。

 

いまこの国の政治は機能停止状態にあり、声を響き通わせることがない、聴こえてくるのはジャージャージャー、ミーンミンミンミーン、ツクツクホーシツクツクホーシ、ウンヨースウンヨース、カーナカナカナカナ、うるさく鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍こそ、口に出す者よりも口に出さない者のほうがよほど説得力がある、心中の思い切なるものが音にならない声となって伝わってくるから。

 

対話も議論もできない国会はなくていい、参院は無用の長物、無駄、内閣府が行政の人事権を握り、権力が国民を監視し、政治活動が窮屈で息苦しくなったいま、疑いようもなく私たちの自由度は下がり、平等であるべき分配が一部エリートと金持ちに集中し、格差は拡大、社会分断に拍車がかかって、とうとう行き着くところにまで来てしまった、そんな行き止まり感だけはヒリヒリ。

 

シェイクスピアは過度に派手に粉飾されることはありましたが、自己変革を願う者によって心中深く息を吹き込まれて命脈を保ってもきました。

 

テキサス独立義勇軍勇士185人は、戦争の善悪の見定めも正邪の判断もつけ難くなった状況下で最終判断、死を前にして思い起こすのは夏の青葉の美しさ、そこには愛する人が、兵士たちは鳴かぬ蝉となって身を焦がしていたのです。(2017.9.19)

 

 

シェイクスピア朗読教室                

http://shaks.jugem.jp

 

 

 

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