シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
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パストラルの異化−『お気に召すまま』2幕5場

 

 

時間と空間には一貫した認識は存在し得ない、アイデンティティーはあっと言う間に不分明、不明確なものに。

 

共通項はない、何を考えても何をやっても然り、集団、組織が大きかろうが、小さかろうが。

 

時間は人によって異なり、空間知覚もそれぞれに異なる、時間と空間は認識の主観的形式であろう。

 

『お気に召すまま』のなかでエイミアンズが素朴で抒情的なバラッドを披露しています。

 

一行は、追放ではない、自由を求めて森へ赴いたのだと。

 

 

 エイミアンズ、ジェイキス、その他登場。

 歌。

 緑の森の木陰に、

 私と一緒に腰を降ろし、

 陽気な歌をうたってくれる人、

 小鳥の囀りに合わせて。

 来て、来て、ここに来て、

 ここには敵はいない、

 ただ冬の寒さがあるだけ。

ジェイキス もっと、もっと、もっとうたってくれ。

エイミアンズ 気が塞ぐだけだよ、ジェイキス殿。

ジェイキス それがありがたい、もっとうたってくれ、

 歌の中身から塞ぎ虫を吸い取るんだ、

 イタチが卵の中身を吸い取るように。もっと、もっとうたってくれ。

エイミアンズ 私の声は嗄れている、気に入るまい。

ジェイキス 気に入るようにしなくていい、

 うたってくれるだけでいい。

 さあ、さあ、次のスタンザ。スタンザって言うんだろ?

エイミアンズ 何とでも、ジェイキス殿。

ジェイキス いや、名前などどうでも、別にそいつに

 貸し借りがある訳じゃない。うたってくれるか?

エイミアンズ リクエストには応えよう、自分が楽しむためじゃなく。

ジェイキス ならば、流儀に従って、礼を

 言おう。お愛想ってやつは出っくわしたようなもの

 道でヒヒ同士が。俺は人に丁寧に礼をされると、

 小銭をやったような気分にさせられる、こいつ乞食みたいに

 へいこらするってな。さあうたってくれ。うたわない者は

 舌を閉じてくれ。

エイミアンズ では、うたいおさめようか。ご一同、食卓の用意を、

 公がこの樹の下で一杯おやりになる。公は1日中君を

 探しておられたぞ。

ジェイキス 1日中逃げていたんだ。

 公の議論好きには付き合えん。

 理屈なら引けをとらないが、俺は

 天に感謝を捧げるだけ、自慢げに吹聴はしない。

 さあ、囀ってくれ、さあ。

 歌。一同。

 野心を捨てて、

 陽射しを浴びて暮らしたい人。

 日々の糧を求めつつ、

 足るを愛し歓ぶ人よ、

 来て、来て、ここに来て、

 ここには敵はいない、

 ただ冬の寒さがあるだけ。

ジェイキス その節回しに一つ乗せてもらおう、

 きのう創作力のない頭で編み出したんだ。

エイミアンズ うたいましょう。

 こうだな。

 何というざまだ、みんな馬鹿になって。

 富を捨て安楽を捨て、

 意地を張っていい気になっている人、

 ダックダーミ、ダックダーミ、ダックダーミ。

 ここに来てみろ、愚か者、

 来れるものなら。

エイミアンズ 何だダックダーミって?

ジェイキス ギリシア語の呪文、馬鹿どもを呼び集めて

 囲みをつくるんだよ。ひと眠りしよう眠れるなら。眠れなけりゃ、

 エジプトで最初に生まれた奴を罵ってやる。

エイミアンズ 公爵を探してくる、

 酒盛りの用意はできた。退場

 

              2幕5場

 

 

 Enter, Amyens, Iaques, & others.

 Song.

 Vnder the greene wood tree,

 who loues to lye with mee,

 And tnrne his merrie Note,

 vnto the sweet Birds throte:

 Come hither, come hither, come hither:

 Heere shall he see no enemie,

 But Winter and rough Weather.

Iaq. More, more, I pre'thee more.

Amy. It will make you melancholly Monsieur Iaques

Iaq. I thanke it: More, I prethee more,

 I can sucke melancholly out of a song,

 As a Weazel suckes egges: More, I pre'thee more.

Amy. My voice is ragged, I know I cannot please

 you.

Iaq. I do not desire you to please me,

 I do desire you to sing:

 Come, more, another stanzo: Cal you'em stanzo's?

Amy. What you wil Monsieur Iaques.

 Iaq. Nay, I care not for their names, they owe mee

 nothing. Wil you sing?

Amy. More at your request, then to please my selfe.

Iaq. Well then, if euer I thanke any man, Ile thanke

 you: but that they cal complement is like th'encounter

 of two dog-Apes. And when a man thankes me hartily,

 me thinkes I haue giuen him a penie, and he renders me

 the beggerly thankes. Come sing; and you that wil not

 hold your tongues.

Amy. Wel, Ile end the song. Sirs, couer the while,

 the Duke wil drinke vnder this tree; he hath bin all this

 day to looke you.

Iaq. And I haue bin all this day to auoid him:

 He is too disputeable for my companie:

 I thinke of as many matters as he, but I giue

 Heauen thankes, and make no boast of them.

 Come, warble, come.

 Song. Altogether heere.

 Who doth ambition shunne,

 and loues to liue i'th Sunne:

 Seeking the food he eates,

 and pleas'd with what he gets:

 Come hither, come hither, come hither,

 Heere shall he see.&c.

Iaq. Ile giue you a verse to this note,

 That I made yesterday in despight of my Inuention.

Amy. And Ile sing it.

 Thus it goes.

 If it do come to passe, that any man turne Asse:

 Leauing his wealth and ease,

 A stubborne will to please,

 Ducdame, ducdame, ducdame:

 Heere shall he see, grosse fooles as he,

 And if he will come to me.

Amy. What's that Ducdame?

Iaq. 'Tis a Greeke inuocation, to call fools into a cir-

 cle. Ile go sleepe if I can: if I cannot, Ile raile against all

 the first borne of Egypt.

Amy. And Ile go seeke the Duke,

 His banket is prepar'd. Exeunt

  tnrne =tune   throte = voice ragged = harsh   disputeable = argumentative

    Greeke 訳が分からないの意 。   all the first borne of Egypt  cf. Exodus12 

  前公爵への恨み節。

 

 

野心を捨てていまあるものに満足しようというパストラル(pastoral、牧童のうたう歌、牧歌、田園詩)的自足を称えるこの作品、何をさておいても牧歌劇でなければなりません。

 

え?馬鹿どもを呼び集めて囲みをつくる?病んだ社会のなかで自己喪失に見舞われた者が逃避、離脱する先が森、その森は何としても牧歌的な楽園であってほしいのだが、追放の身となった事実が消えるわけではない?

 

アーデンの森をアルカディアと思い決めて満足しようとする firstborn son の前公爵の能天気な理屈は我慢ならない、ジェイキスにとって牧歌的空間は日常生活の円周からはずれた異界でしかないのか。

 

理想を追う牧歌の常套はこうして富と安楽を捨てる愚と嘲弄されて異化されてしまいます。

 

シェイクスピアは牧歌という伝統のなかに皮肉屋のジェイキスを投入し、牧歌を批判する牧歌劇という構成にまとめあげたのです。

 

相異なる価値観を衝突させ異化させる手法は、どちらか一方の価値を称揚するのでなく、対立概念の葛藤を経験させて思い込みを攻撃、相対化する、そうであるはずのものがそうでないという、半分半分違っていて、入れ替え可能な互換性ある一つのものにしてしまう。

 

だから、牧歌劇であれ、悲劇であれ、喜劇であれ、問題劇であれ、どうぞ「お気に召すままに」ということなのか。

 

いま、いや昔も、時間と空間は歪み、揺れ続けています。

 

私たちは緑の空間に身を置いてもなお、ステレオタイプ化するおのれを壊してアイデンティティーに対する新しい感覚を取り戻さなければならないようです。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

http://shaks.jugem.jp/

 

 

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