シェイクスピア朗読

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権力―『ジュリアス・シーザー』1幕1場

 

権力とは、ただひとつであること、一つの種類だけでほかに混じりもののないことを望み、多様性を否定するものです。

 

他人を支配し服従させようとしてはいけない、寛容と忍耐、譲歩の美徳尊重、異なる意見を聴いて敵だ味方だと峻別してはいけない。

 

日本国憲法はいきり立つことを許さない、民主主義的政治形態は強権を許さない。

 

優しさと心の穏やかさを失って居丈高になると多様性の豊かさが萎む。

 

日本は多様性に富んだ国である、北から南からやって来た人類の多様な遺伝子、春夏秋冬に見せる多様な景観美、生物多様性、そこに生み出される多様な色彩文化、与えられた列島という環境のなかで育まれた多様な日本人の知恵のあれこれ。

 

いまの日本の不幸は、これら多様性の否定、虐待、喪失にあるのではないか。

 

負けられません勝つまではの単一思考、単一的価値の押し付けが蔓延、浸透し、権威となり、服従と追随を生み、主張、自主性、独自性、意外性、異質性、奇想天外、ユニークさは排除される。

 

権力志向の強い者が勢ぞろいして非を理に言い曲げて示威する状況は、嘆かわしい、情けない。

 

ヒーローと少数エリート集団の舞台を想い起こすまでもなく、権力志向はあとを絶たない。

 

共和政下のローマでポンペイ一族を滅ぼして凱旋するシーザーを熱狂的に迎えようとする市民、いや、平民がいて、その群衆化に不安を感じるのが小数エリート派集団の元老院の貴族たちと護民官たちです。

 

彼らは民衆が興奮してシーザーを皇帝に押し上げでもしたら、自分たちの存在が脅かされると危惧するのです。

 

 

マララス 商売は何だ?はっきり言え。

靴直し 商売ですよ旦那、商売と言ったって、

 まともなもんで、いやほんと、いかれたやつの修理屋です。

フレイヴィアス どんな商売をしているんだ?分からず屋め、

 どんな商売だ?

靴直し まあまあ旦那、機嫌を悪くなさらないで。ですが

 いかれているようでしたら旦那、直して差し上げます。

マララス なんだと?俺を修理するってのか、この

 糞生意気な野郎が?

靴直し 手前は旦那、底のほうを直しますんで。

フレイヴィアス 靴直し、なのか?

靴直し その通り、食べておりますんで、錐1本で。

 別に他人様の商売や、女を突っついたりは

 しません。実のところ旦那、手前は靴の外科医なんで。

 命が怪しくなると、手前が直して差し上げる。

 旦那方が子牛のなめしをお召しになるように、

 もうみんな手前の手仕事をあてにしておりまして。

フレイヴィアス だがなぜ店にいないんだ今日は?

 なんで連中を引き連れて街をほっつき歩くんだ?

靴直し 実のところ旦那、靴を減らしてもらって、

 手前の仕事をこさえてもらおうかと。いえね旦那、

 店を休んでシーザー様を見ようと、凱旋をお祝いして。

マララス 何がお祝いだ?

 どんな戦利品を持ってくるというのだ?

 どんな捕虜をローマに連れて来るというのだ、

 戦車の飾りに縛りつけて?

 この唐変木の、石頭の、感覚なしの物にも劣る奴め。

 情知らずの、残酷なローマ人め、

 ポンペイ殿を忘れたのか?

 城壁によじ登り胸壁にかじりついて、

 塔や窓に群がったんじゃないのか?そう、煙突にまで、
 腕に子どもを抱いて、坐って

 一日中、我慢していまかいまかと待って、
 あの偉大なポンペイがローマに凱旋するのを見ようとした。 
 戦車がちらっと見えただけで、

 一斉に歓呼の声をあげたから、

 ティベール川も土手下で身を震わせた、

 お前たちの喚声がこだまして、

 両岸に響いたんじゃなかったのか?

 なのにお前たちは晴着を着てめかし込むのか?

 わざわざこの日を休みにするのか?

 シーザーの前に花を撒くのか、

 ポンペイ一族を滅ぼして凱旋するってのに? 立ち去れ、
 走って家に帰れ、跪いて、

 神々に祈って災いを留めてもらえ
 こんな恩知らずには天罰が下るぞ。

 フレイヴィアス 帰った、帰った、平民、罪滅ぼしに

 仲間の貧乏人をみんな集めろ。

 タイバーの堤に連れて行って、涙を流せ

 水路に、いま一番低い川が

 涙で一番高い岸辺に溢れるまで。

 平民すべて退場。

 

               1幕1場  

 

 

Mur. But what Trade art thou? Answer me directly.

Cob. A Trade Sir, that I hope I may vse, with a safe

 Conscience, which is indeed Sir, a Mender of bad soules.

Fla. What Trade thou knaue? Thou naughty knaue,

 what Trade?

Cobl. Nay I beseech you Sir, be not out with me: yet

 if you be out Sir, I can mend you.

Mur. What mean’st thou by that? Mend mee, thou

 sawcy Fellow?

Cob. Why sir, Cobble you.

Fla. Thou art a Cobler, art thou?

Cob. Truly sir, all that I liue by, is with the Aule: I

 meddle with no Tradesmans matters, nor womens mat-

 ters; but withal I am indeed Sir, a Surgeon to old shooes:

 when they are in great danger, I recouer them. As pro-

 per men as euer trod vpon Neats Leather, haue gone vp-

 on my handy-worke.

Fla. But wherefore art not in thy Shop to day?

 Why do'st thou leade these men about the streets?

Cob. Truly sir, to weare out their shooes, to get my

 selfe into more worke. But indeede sir, we make Holy-

 day to see Cæsar, and to reioyce in his Triumph.

Mur. Wherefore reioyce?

 What Conquest brings he home?

 What Tributaries follow him to Rome,

 To grace in Captiue bonds his Chariot Wheeles?

 You Blockes, you stones, you worse then senslesse things:

 O you hard hearts, you cruell men of Rome,

 Knew you not Pompey many a time and oft?

 Haue you climb'd vp to Walles and Battlements,

 To Towres and Windowes? Yea, to Chimney tops,

 Your Infants in your Armes, and there haue sate

 The liue-long day, with patient expectation,

 To see great Pompey passe the streets of Rome:

 And when you saw his Chariot but appeare,

 Haue you not made an Vniuersall shout,

 That Tyber trembled vnderneath her bankes

 To heare the replication of your sounds,

 Made in her Concaue Shores?

 And do you now put on your best attyre?

 And do you now cull out a Holyday?

 And do you now strew Flowers in his way,

 That comes in Triumph ouer Pompeyes blood?

 Be gone,

 Runne to your houses, fall vpon your knees,

 Pray to the Gods to intermit the plague

 That needs must light on this Ingratitude.

Fla. Go, go, good Countrymen, and for this fault

 Assemble all the poore men of your sort;

 Draw them to Tyber bankes, and weepe your teares

 Into the Channell, till the lowest streame

 Do kisse the most exalted Shores of all.

  Exeunt all the Commoners.

 

   soules  soles(足の裏) とも聴こえる  proper = fine     gone = walked     

    Tributaries = ransome payers     senslesse = inanimate     replication = echo   

    cull out = choose    blood = offspring  plague   神罰と考えられていた

 

 

マララスとフレイヴィアスは平民保護のために平民会から選出された護民官で、平民代表として貴族たちと丁々発止渡り合って、ローマの多様な価値の追求に精出さなければならない立場です。

 

ところが頭にあるのは保身、どうしたら折角得た地位・権力・名誉を保てるかだけで、選出された時点で自分の立場など忘却の彼方に。

 

肩書きが付くと人間はこうなる、豹変する、ちょろっと目立ったくらいで神通力を持つ高慢な天狗に。

 

平民に向かって居丈高に吠え立てるのは、貴族側元老議員の決定を拒否できるほどの権力を持つ人物、明日には皇帝に就くかもしれない人物に対して疑心があるから、自分たちも一端の権力者だと錯覚しているのです。

 

で、ことの成り行きを決したのは彼ら護民官たちではない、暗殺計画の首謀貴族キャシアスでもない、シーザーにとどめの一撃を加えて共和制を維持しようとしたブルータスでもない。

 

そう、個人ではない、分からず屋の、糞生意気な、唐変木の、石頭の、感覚なしの、物にも劣る情知らずの、残酷なローマ市民なのです。

 

と言っても、彼らを煽り立て暴徒化させて利を得たのは、もう一人の悪賢い個人でしたけどね。

 

古代ローマのフォルム(Forum、都市の公共広場)は、四周をバシリカ、元老院、神殿などの公共施設や列柱廊で取り囲まれるオープンスペースで、ここでブルータスがシーザー暗殺の大義を説き、市民がブルータス万歳を叫んだ、直後アントニーが熱弁をふるって市民を扇動、群集と化した市民はシーザーの遺産相続人に豹変して、ブルータスとキャシアスは逆賊の運命を転がり落ちて行くのです。

 

非暴力主義者のガンジーは言いました、自分と異なる意見を聴こうとしない不寛容は敵か味方かを選別する独裁となり、暴力化すると。

 

民主主義という蓑を被った浅はかな多数派の思惑によって物事が決まる状況は危うい、繰り返される人間の権力志向の醜態が人間の頭よりもロボットやコンピュータのほうが信用できると私たちに思わせるのです。

 

人間の未来社会の決定権をロボットやコンピュータに譲っていいのか、機械を権力者にしていいのか。

 

多数派であれ、少数派であれ、ヒーローであれ、機械であれ、疑ってかからなければなりません。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

http://shaks.jugem.jp/

 

 

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