シェイクスピア朗読

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相性−『ヴィーナスとアドーニス』31〜33連

 

平成30年が暮れて新しい世を迎えようとしているいま、思うのは相性ということ。

 

相性がすこぶるよろしくない、人間関係から国際関係まで。

 

共感し合う相手を取り違えるのか、あっちもこっちもギクシャク関係、地球丸ごと心のお天気は雨降り状態、とうとう何もかも「災」の一字で括られる事態に

 

夫が定年後毎日ずっと家にいることに耐えられない、生理的嫌悪感を感じる、離婚せずにお互い干渉しないで自立した生活をと願う女性の率婚肯定論者が急増しているという。

 

人間関係の基本たる男女の関係が肌寒くなるほどに薄味になっている、ヴィーナスとアドーニスみたいに、このミスマッチが一番気になるところ。

 

フェロモン嗅ぎ分けて相性のいい相手を選び損なったか、そう、虫に訊けば分かるよね。

 

愛の女神は健康で明るい豊穣の女神である、そんなこともフェロモン・センサーのチェック機能不全が招いた災厄

 

現代のアドーニスは女性対応能力に欠ける、論理的思考の左脳優位で嗅ぎ損なっているんじゃないか。

 

バランスよく脳をはたらかせることができなければセンサーは作動しない。

 

どうやら脳の問題みたい。

 

常軌を逸した男女の関係、そんな皮肉な状況を濃密にもあっけらかんと描いてみせた物語詩『ヴィーナスとアドーニス』。

 

 

 アドーニスの心は気乗り薄、

 重く、暗く、瞳を曇らせて、

 しかめた眉が端正な面を覆い、

 目は涙に潤んでいまにも空を曇らしそう、

  不機嫌そうに、言う、やめてよ、恋の話なんて、

  太陽で顔が火照るからもう行くよ。

 

 あら、まあ、(ヴィーナスが言う)若いのに、らしくない。

 そんな言い訳をして私から逃げるつもり?

 天の吐息を吹かしてあげる、やさしい風だから、

 灼熱の太陽もおとなしくなるわ。

  この髪を広げて日陰をつくってあげる、

  髪が燃えたら、涙で消してあげる。

 

 太陽の輝きなんて、ただ暖かいだけ、

 こうやって身を横たえる、あなたとの間に。

 どんなに熱く燃えたってどうってことない、

 あなたの瞳の炎のほうよ私の身を焦がすのは、

  不死の身でなければ、燃え尽きてしまいたい、

  天の太陽と、地上の太陽の間で。

 

              31〜33連

 

 

 And now Adonis with a lazie sprite,

 And with a heauie, darke, disliking eye,

 His lowring browes ore-whelming his faire sight,

 Like mistie vapors when they blot the skie,

  So wring his cheekes, cries, fie, no more of loue,

  The sunne doth burne my face I must remoue.

 

 Ay, me, (quoth Venus) young, and so vnkinde,

 What bare excuses mak'st thou to be gon?

 Ile sigh celestiall breath, whose gentle winde,

 Shall coole the heate of this descending sun:

  Ile make a shadow for thee of my heares,

  If they burn too, Ile quench them with my teares.

 

 The sun that shines from heauen, shines but warme,

 And lo I lye betweene that sunne, and thee:

 The heate I haue from thence doth litle harme,

 Thine eye darts forth the fire that burneth me,

  And were I not immortall, life were done,

  Betweene this heauenly, and earthly sunne.

 

  lowring = lourig     remoue = leave    vnkinde = unnatural 

  bare = poor    done = destroyed

 

 

いかがであろうか、男女の役割が逆転するストーリー性あるバラッド(ballad、物語詩)と説明されてきたこの物語詩、読み返してみるとそんなんじゃない、逆転などしていない、いま風、リアル、わななき騒ぎ笑える、繰り返しじわじわ楽しめる極上のエンターテインメント。

 

物語詩には叙事詩(epic)と民間伝承(ballad)の形式でつくられるものがあって、それこそ気が遠くなるほど遠い昔からの伝統を誇っているもの。

 

口承の時代には文字を読むという行為はなくて、自然発生的に生まれたフォークソング、呪文めいた言葉を集団で朗誦し、それら合唱のリズムが宗教的呪術的な効果を生み出して綿々とうたい継がれてきた、楽器演奏という音が混じり、踊りという動きを付随させて。

 

やがて神にも近い偉大な人物を称えるための歌へと変質し、紀元前1,000年頃に『イーリアス』や『オデュッセイア』、紀元前40年頃にオヴィディウスの『変身物語』、中世にラングランドの『農夫ピアスの夢』やチョーサーの『カンタベリー物語』、17世紀に入ってミルトンの『失楽園』という壮大な叙事詩が生み出されました。

 

バラッドのほうはどうか、最盛期がブロードサイド・バラッドが加わったシェイクスピアの少し前の時代、4行でスタンザを構成し、abcbの韻を踏み、感情を交えずに淡々とストーリーを語る形式が定着。

 

シェイクスピアの『ヴィーナスとアドーニス』は1593年にぺストが大流行して劇場閉鎖になったときに書かれた1,194行に及ぶ悲劇的ファルス的恋愛をテーマとする長詩で、『変身物語』由来。

 

情欲は時に欺瞞に満ち、暗い、卑俗的、破壊的であるとされるが、シェイクスピアはそん風には見ない、愛の女神を情欲の権化と見る視点、穏やかな春の愛のなかに情欲に溺れる人間の姿を見ているのです。

 

明るく、おおらかに、豊かに、断乎肯定されるものとして。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読

http://shaks.jugem.jp/ 

 

 

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