シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
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ああ哀れヨリック―『ハムレット』5幕1場


薬や外科手術を用いない療法のことをセラピー (therapy) と言います。

 

癒しは サイコセラピー(psychotherapy)。

ハムレットは心を復讐一色に染め、狂気を装い、復讐の機会を窺いますが、復讐は人殺しじゃないか、自分は悪魔に唆されて地獄に引き込まれようとしているんじゃないかと妄想。

さて、
そうなると、今度は、俺は復讐もできない意気地なしか、決断できない木偶の坊だ、生きている意味がない、とまで自分を追い詰めてしまう。

出てくる言葉が、生きるか死ぬか、それが問題。

呻吟して、死ぬとは眠ることか、
では眠った後はどうなるか、と考える。

 

夢を見る?

 

苦悩は深まり、堂々巡りする、こんなハムレットをどうセラピーすればいいか。

 

皮なめし屋の死体は9年間は腐らないと言う道化(墓掘り)に、ハムレットがどうしてと尋ねるシーン。

 

 

道化 だってよ、奴の皮は商売柄たんとなめしているから、

 長いこと水をはじくんだ。水ってやつは、

 死体をやけに腐らせる。そらまた一つ髑髏が

 出てきた。こいつは、23年間土んなかに寝転んでいたんだ。

ハムレット 誰のだ?

道化 とんでもねえ気違い野郎のさ。

 誰のだと思う?

ハムレット いや、分からんな。

道化 糞いまいましい気違い野郎よ、1本ぶっかけやがった

 俺の頭に葡萄酒の大瓶を。これがあいつの髑髏、

 旦那、あいつの髑髏だ、ヨリックの、先の王様お抱えの道化。

ハムレット これが?

道化 そうとも。

ハムレット どれ、ああ哀れヨリック、覚えているよ

 ホレイショー、冗談を飛ばしていた。突拍子もないことを、

 よくおぶってもらったな。それがいまじゃ
 身の毛がよだつ想像するだけで、吐気を催す。このあたりに

   唇があって、何度チューしたか知れない。
 お前の皮肉はどこに行った?踊りは?

   歌は?気の利いた駄洒落が

 食卓を湧かせたんじゃないのか?もう誰も笑ってくれないのか

 歯を剥き出したこの顔を?顎が落ちたか?その面下げて女の

 部屋に行って、言ってやれ、厚化粧したって、行き着く先は

 ほれこのとおりの顔だってな。そう言って笑わせてやれ。 

             

                  5幕1場

 

 

Clo. Why sir, his hide is so tan'd with his Trade, that

 he will keepe out water a great while. And your water,

 is a sore Decayer of your horson dead body. Heres a Scull

 now: this Scul, has laine in the earth three & twenty years.

Ham. Whose was it?

Clo. A whoreson mad Fellowes it was;

 Whose doe you thinke it was?

Ham. Nay, I know not.

Clo. A pestlence on him for a mad Rogue, a pou'rd a

 Flaggon of Renish on my head once. This same Scull

 Sir, this same Scull sir, was Yoricks Scull, the Kings Iester.

Ham. This?

Clo. E'ene that.

Ham. Let me see. Alas poore Yorick, I knew him Ho-

   ratio, a fellow of infinite Iest; of most excellent fancy, he

   hath borne me on his backe a thousand times: And how

 abhorred my Imagination is, my gorge rises at it. Heere

 hung those lipps, that I haue kist I know not how oft.

 VVhere be your Iibes now? Your Gambals? Your

 Songs? Your flashes of Merriment that were wont to

 set the Table on a Rore? No one now to mock your own

 Ieering? Quite chopfalne? Now get you to my Ladies

 Chamber, and tell her, let her paint an inch thicke, to this

 fauour she must come. Make her laugh at that:

  

  horson = vile   Renish = Rhine wine    fancy = imaginative ability      

   fauour = appearance 

 

               
シェイクスピアはハムレットにヨリックの髑髏を手に持たせて瞑想させたのです。

 

昔は死の瞑想療法を施すときにアレクサンダー大王を引き合いに出したようです。

 

アレクサンダー大王が死ぬ、葬られる、土に還る、その土から粘土ができる、その粘土でビール樽の栓がつくられると。

シェイクスピアはハムレットにアレクサンダー大王の死を想起させることで死についての幻想を捨てさせたのです。

只管打坐という死の瞑想法がありますね。

 

ひたすら座っているだけで余念を交えず、無我の境地で呼吸一つになる行のことです。

壁に向かって目を半開きに、周囲を暗くし、意識を眉間に置いて動かさず、何も考えない、と言われても、雑念、妄想ばかりが次々に湧いてくる。

 

そうこの形ではうまくいかない、格好は瞑想しているように見えても頭は何を考えているか知れたものではない

 

で、もう一つの瞑想法が自己暗示というベルリン大学のJ.H.シュルツ教授の方式。

背筋だけ真っ直ぐ伸ばして、あとはダラ〜〜〜ン、呼吸を深く整え、足が重た〜〜〜い、下半身が暖か〜〜〜いと呟いて自分に暗示をかけるやり方。

露天風呂に入った気分で、山が見える〜〜〜風が吹いてきた〜〜〜額がひんやりして気持ちいい〜〜〜葉っぱが落ちてきた〜〜〜とか何とかつぶやいているとセルフコントロールされてくるのです。

 

お坊さんが木魚をポクポクと叩いて念仏を唱えることなんかも。

 

手は動くし、口は動くし、リズミカルだし、心地よくお腹に響くし、セラピーになっています。

朝晩仏壇に線香を寝かせ、その線香がじわじわと燃え尽きるまで南無阿弥陀仏を繰り返すなど、私ではなくて、お爺ちゃんがやっていたことです。

内容はともかく、リラックスした脳波に入れ替わって、額のあたりが涼しくなり、突っ張っていた意識が消え、怒りも消え、現実を素直に受け入れることができるようになる
日本人が受け継いできたすぐれた瞑想法

リズミカルに繰り返していると、手も口も頭も活発にはたらいて、雑念も消え、妄想も消え、この世とあの世との関係が滑らかになってくるんですね。

 

ハムレットは復讐に囚われ、怒り、焦って、感情を波立たせている自分がつくずく嫌になった、この身は遅かれ早かれ終わる、この世の手に余るものをあれこれ考えてもどうなるものでもない、穏やかな気持ちを少しでも増やして命の限界を受け入れるしかない、髑髏を手にしてハムレットはあるがままそのままの死を実感することができたのでしょう。

 

自然のままにという気持ちにさせるセラピーは、実は特別なことでもなんでもない、日本人なついこの間まで誰もが実践していたことなのです。

 

自分の力だけでは生きられないと無念無想、あるいは念仏を唱えて、自分を穏やかに包んでくれる大いなるものに目を向けたのです。

地球規模の天災と人災は相変わらず続いていますが、雪も溶け始め、朝夕ひんやりと、このひんやり感がサイコセラピーにちょうどよろしい。

 

この身を丸ごと預けられる自然に癒されながらちょっとそこらを散歩いたしましょう。

 

 

うちむらとしのりシェイクスピア朗読 

http://shaks.jugem.jp/


 

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