シェイクスピア朗読

シェイクスピアについて徒然に綴るブログです
英詩朗読

 

安倍首相は令和をあからさまに政治利用していますね。

 

令和初の国賓として招かれた米国大統領が令和フィーバーを盛り上げる接待外交であったことが明らかになりました。

 

トランプさんが貿易交渉の妥結は8月、参院選後と言い、日本との緊密な関係が中国の覇権自制を促し、北朝鮮への圧力になると。

 

平成から引きずる政治問題を祝賀ムードでチャラに、難しいことをいう奴は排除できる空気に。

 

社会を浮ついた状況にして冷静な議論をする判断力を国民から奪ってしまえると考えたようだ。

 

日常的に起こるテロとも言える殺傷事件をよそに。

 

お祭り気分で来月は選挙なのか。

 

学生のときに当時の高橋源次学長から J.F.Kennedy の大統領就任演説(1961年1月20日)を読まされた、My fellow citizens of the world: ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man 〜世界中の人びとに韻律を持つ形式で拡張高く訴えたスピーチを思い出します。

 

そしてもう一つ思い出すのが、中学生のとき、ほろ酔い加減の親父の前でアメリカの詩人ポー(Edgar Allan Poe、1809-49)『アナベル・リー』(Annabel Lee、1849)を朗読させられたことを。

 

  IT was many and many a year ago
 In a kingdom by the sea
 That a maiden there lived whom you may know
 By the name of ANNABEL LEE
 And this maiden she lived with no other thought
 Than to love and be loved by me.

   I was a child and she was a child
   In this kingdom by the sea
   But we loved with a love that was more than love
   I and my ANNABEL LEE
   With a love that the winged seraphs of heaven
   Coveted her and me.

   And this was the reason that, long ago
   In this kingdom by the sea
   A wind blew out of a cloud, chilling
   My beautiful ANNABEL LEE
   So that her highborn kinsman came
   And bore her away from me
   To shut her up in a sepulchre
   In this kingdom by the sea.

 

昔々

海のほとりの王国に

一人の娘が住んでいた
その名はアナベル・リー
いつも心に思うのは

 私を愛し私に愛されることだけ。

 

 私もあの子も子どもだった

海のほとりの王国では
でもこの上なく深く愛し合った

私とアナベル・リー
天上の翼ある天使たちも
羨むほどに。

 

それがいけなかったのか、遥か昔
海のほとりの王国に
冷たい風が吹いて、凍え死にさせた
美しいアナベル・リー
天上の天使たちがやってきて
あの子を私から取り上げ
墓のなかに閉じ込めてしまった
海のほとりの王国の。

 

 

インナセパルカー インディスキンダム バイザシー〜音声の長短、母音と子音、長母音、リエゾン、アクセントを意識させられたことがいまも鮮明に。

 

ポーは26歳のときに13歳のヴァージニアと結婚、彼女は病弱で24歳のときに結核で亡くなり、その2年後にこの詩が書かれ、同年にポーもこの世を去ったのでした。

 

詩はぜんぶで6連あり、それぞれ6・6・8・6・7・8行になっていますが、ここでは前半部分のみ。

 

ポーはこの詩をバラッドと言ったようですが、伝統的なバラッドは4行連で、弱強脚を4回繰り返し、2行と4行の終わりに脚韻が付きますね。

この詩の最初の2行、It was many and many a year ago/In a kingdom by the sea は、強弱|強弱弱|強弱弱|強弱強/強弱|強弱|弱弱強|となるのでしょうか、構造は強と弱が11音節と7音節、多音節行と少音節行が交互に出てきて、他の行は必ずしも交互構造が一貫していない、次の4行には詩的韻律があり複雑、バラッドとは異なります。


脚韻はあって、最初のスタンザは go, know, thoughtSea, Lee, me が交互に、響きのよい句の反復があり、kingdom by the sea が繰り返され、Annabel Lee beautiful Annabel Lee  と繰り返されて、I was a child and she was a child という対比的なリフレインに。

 

英語の発音は腹式呼吸でやりますが、腹式呼吸というのは私たちにとっては通常の呼吸法ではありませんよね。

 

違いを明確にして言えば、立ったり座ったり寝転がったりしているとき、肋間筋と横隔膜の収縮と弛緩によって息を吸うときに胸が膨らみ、息を吐くときに胸が縮みます。

 

日本人には自然な胸式呼吸運動による吸い込む空気はせいぜい500cc、この量の呼気で私たちは言葉を発しているのです。

 

腹式呼吸では、腹筋と横隔膜を使って息を吸い込みますので、お腹が膨らんだり凹んだりして視覚的に確認することができます。

 

腹筋と横隔膜の動きによって吸い込むと通常の3倍くらいの空気を吸い込むことができて、このように空気をたくさん吸って発声するのが英語を話すときの呼吸法。

 

呼吸は姿勢と密接に関係して、私たちの多くは猫背ぎみ、前屈み、横隔膜の上下動を制限しています、この状態で息を吸い発声しても声帯に力を入れて声門を開閉させるだけで深みのある太い声は出てきません。

 

英国人は姿勢がすこぶるよろしい、背筋をぴんと伸ばし、胸を張り、まっすぐに立ち、両手をたらし、歩くときはサッサッサッと大股に。

 

肋間筋を動かすか腹筋を動かすかの違いは異習性、異文化の違いとしか言いようがありませんが、英語を喋るにはこの異文化呼吸法を意識的に身につけなければならないでしょう。

 

詩は心に湧き上がる気持ちや想いを言葉に託す言葉の芸術で、洗練された語彙、配列の醸し出すリズム、詩は美しい言葉の結晶と言えます。

 

福原麟太郎先生に教わったと言っていた親父は、英語の詩の響きとリズムを一息の深い呼吸で息子に朗誦してみせたかったのです。

 

そう、マザーグースからワーズワース、バーンズ、ロゼッティーらの短詩から始めて、ポーやホイットマンも含め、シェイクスピアのソネット(十二行詩)までをレッスンする、これら英語の詩を朗読しながら英語の始まりを、つまりモダーンイングリッシュについて学ぶというのが英語学習の王道ではないでしょうか。

 

腹式呼吸法を身につけ、大勢で声を合わせて英語の歌をうたい詩を朗読する、そのようなやり方で英語を学習するなら、子どもたちも、英語を苦手とする方々も、年齢に関係なく、心を弾ませながら学ぶことができるのでは。

 

深い呼吸を必要とするのでほどよい有酸素運動にもなるでしょう。

 

詩があるじゃありませんか、この世が空疎で殺伐とした韻律のない散文的物言いに覆われていても。

 

 

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| - | 17:58 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
AI を凌ぐ人間力−ソネット59

 

世界は多極化し、社会主義、資本主義、民主主義の常識という常識が差し引きゼロの状態になった感のある令和元年、そこに登場してきたのが人知を超える意識を持つ AI (人工知能)と万能ロボット、この世を一変させかねない第4次産業革命の到来。

 

平成最後の先日、NHKのクローズアップ現代が AI 時代の仕事と教育のあり方について手探りの議論を交わしていました。

 

すべてが AI 化、ロボット化される未知の世界に備えて、人間はどのような力を身につけたらいいか、そんな内容。

 

この世の機構、規則のすべてがAI に合わせられる、そんな事態に備えて AI に倫理の概念を持たせることができるか、人がいらなくなった社会に人間はどのように適応できるか、私たちは AI に負けない人間力(つまり共感関係を築く力)を身につけなければならないと。

 

一昔まではシステムを支える普遍的フィロソフィーというものがありました、曰く、自由主義、曰く、民主主義、エトセトラ。

 

けれども、資本主義的経済システムの成熟とグローバル経済システムの出現の重なり具合から読み取れるのは、見事に構築された驚嘆すべき理念、などではない、あるのは不平等をもたらす搾取装置であり、富はことごとく一部権力者に吸い上げられる不自由主義と分断の悲哀。

 

実証的客観性と数学的厳密さから出てくるものは、強いのが正しい、一番にこそ価値があるとする考え、そんなプロパガンダに煽られて理系研究者は大金を動かす権威に世界一になる儲け話を吹き込む、増額された競走的資金が研究に流れ、これを文系研究者が批判しても議論が科学的でないと一蹴され、あげくに干される。

 

搾取と不平等が加速して社会を分断して行くが、格差を回避する手立ては見つからない。

 

昔に比べて私たちの頭は脆弱になったのか、昔の不便な時代の人間のほうが体力、知力をはたらかせる上で優れていたのか。

 


 新しいものは何もない、いまあるものは、

 以前にもあったというのであれば、欺かれているんじゃないか、

 新しい作り物を異常出産するようなもの

 前に生まれた子どもをもう一度生み直して?

 ああ振り返って詳しく記憶を辿り、

 500年の過去まで暦を遡ることができるならば、

 古い書物で君のイメージがどんなものか分かる、

 人がはじめて思いを文字に託して以来の。

 昔の人がどのように言ったかが分かる、

 この見事に構築された驚嘆すべき君の身体を、

 私たちが進んでいるのか、彼らの方が優れているのか、

 あるいは歴史は同じことを繰り返すのか。

  ああ私は確信する昔の才能ある者たちの、

  捧げた讃辞のほうだろう劣っているのは。 

 

              ソネット59

 

 

 IF their bee nothing new, but that which is,

 Hath beene before , how are our braines beguild,

 Which laboring for inuention beare amisse

 The second burthen of a former child ?

 Oh that record could with a back-ward looke,

 Euen of fiue hundreth courses of the Sunne,

 Show me your image in some antique booke,

 Since minde at first in carrecter was done.

 That I might see what the old world could say,

 To this composed wonder of your frame,

 Whether we are mended, or where better they,

 Or whether reuolution be the same.

  Oh sure I am the wits of former daies,

  To subiects worse haue giuen admiring praise.

 

  beguild = cheated    laboring = giving birth    mended = improved

 

 

聖書からの引用が目立つこの十四行詩、「 見事に構築された驚嘆すべき君の身体」(this composed wonder of your frame )が多様なイメージを呼び起こしてくれます。

 

16世紀の西ヨーロッパに始まった近代システムはヒューマニズム(humanism、開放的調和的市民的人間性)に基づく発展の営みでした。

 

ポスト近代システムの状況はと言えば、資本主義的経済システムの成熟化ではなかった、グローバル経済システムへの交替というのでもなかった、人間の意思がプログラムで制御される未知の世界への盲目的突入に他ならなかった。

 

では未知の世界のAI を支えるフィロソフィーは何か。

 

機械の知能化は人間の肉体的知的能力を広げるのではない、政治、経済、社会、生活のメカニズム、そして教育の諸制度に影響を及ぼし、人間から仕事を次々に奪って行く、労働という労働は AI に代替され、高学歴のエリートは必要なくなる、ヒューマニズムは否定され、もはや生身の人間は必要でなくなる、人工知能は人間の自由意思や自律性を維持するシステムではない、恐るべき文明の利器である。

 

にもかかわらず、企業に新しい時代に備える人材育成の工夫がない。

 

人間が捨てられるのを食い止めるのは政治の役割であろうが、政治家は一様に不勉強で、認知機能も怪しげだから、危機意識がない、今までのやり方でやり過ごす対症療法しか頭に浮かばない、モノでも、歴史でも、何でも、自分に都合のいいように利用する利便・効率第一主義でやってきたから、AI だろうと何だろうと自分たちに従属すべきものとたかを括っている。

 

政党は、自由や民主の名称にこだわり、膠着状態に陥っている、お手上げであろう。

 

NHKは AI 時代のシステムを支えるフィロソフィーを次の三つに収斂させてみせました。

 

1、クリエイティヴィティー(creativity)、即ちアイディアを実現させる力。

2、ホスピタリティー(hospitality)、即ち親切なおもてなしの心。

3、マネジメント(management)、即ち心の管理能力、業務のほうでなく。

 

これらを理念として AI の得意分野と不得意分野を見極め、AI に負けない人間力をつけなければなりませんと。

 

AI の不得意分野は言語の理解と体感であろうか、自分の頭で考え、自分の言葉で話し、自分の目や耳、皮膚感覚で真偽のほどを確かめ、誰かを愛することを知り、楽しく歌をうたいながら一緒に力を合わせて何事かを成し遂げる、そんな面倒くさいプロセスを愉しむ真似は AI にはできないんじゃないか。

 

いやいや、人工知能は、傲慢不遜を恥じない人間の頭を遥かに超えて言語を理解し、感覚を持ち、感情を持ち、意志を持ち、自ら設定した目標を実現するところまで進むだろう、間違いなく。

 

 AI とロボットは逆噴射するに決まっているのだ、いずれ地球史的な進化の最終段階を迎えるのではないか。

 

その兆しはもう見えている。

 

教育が問われるのだろう。

 

関係性を築くための新たな教育は、超知能文明への到達を断念して、土、水、太陽、空気、山、川、海に触れて命を躍動させ、輝かせる、その一点に尽きるのではないか。

 

知力は、広く詩を読み、舞台を観て、人間知と社会知を深める、関係性構築力に磨きをかけ、研ぎ澄まし、はびこる人間悪に立ち向かう、これ以上の対処法があるだろうか。

 

為政者の「命令」が人間の「麗しさ」までコントロールし始めたいま、AI とロボットの時代に必要とされる人間力とは、強い声、大きい声、ましてや権力を持つ者の声などではないことを再確認しておきたい。

 

 

シェイクスピア朗読教室

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| - | 07:56 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
天球の音楽−『ヴェニスの商人』5幕1場

 

平成に代わる新元号令和の発表後、国際的に影響力が大きい英BBC放送が令和は order(命令、秩序)と harmony(調和) を表すと報道し、 order は command(指令)を意味すると報じた欧米メディアもありました。

 

令は通常法令、勅令、律令など法律の意味で使われますから、法の支配に基づく、つまり秩序ある調和とイメージできるでしょうか。

 

ところが、異なる解釈をされてはたまらないと政府は英語で説明する際 beautiful harmony(美しい調和)という趣旨だと伝えるようにわざわざ在外公館に指示しました。

 

令なんてこれまで書いたことがないし、真逆の意味に使われることだってあるんじゃないでしょうか、複雑怪奇な漢字。

 

令嬢、令息、令夫人はもはや死語、うるわしいんであれば麗しいって書くでしょうし、巧言令色と言えば笑顔つくって口先上手に人を喜ばせ媚びへつらうことでしょ、どこかの政治家みたいに。

 

江戸時代まではぜんぶ中国起源、漢字、日本語の音にこだわって工夫されたくずし文字がひらがな、おんな文字と言われてきたものです。

 

日本の古典、あるいは和語を強調したけりゃ、音を重視して、「れいわ」あるいは「れいな」にすりゃよかったのです。

 

大化の改新から始まった元号ですが、中国に元号はもうないし、世界中で残っているのは日本だけだし、天皇制そのものも問われているときだし、西暦で統一してしまえばいいのかもしれない。

 

和も色々物議を醸す漢字で、意見を言うより体制に従うほうが楽という同調主義者も多い。

 

天皇から防人に至るまでの万の言の葉を集めた万葉集(まんにょうしゅうと発音)を典拠にしたいという気持ちは分からないでもない、音を借りた万葉仮名でというのはね。

 

茜草指 武良前野逝  標野行  野守者不見哉 君之袖布流(額田王、雑歌)をはじめとして相聞と言われる歌も溢れ返って、愛し合う古代の二人には、茜色に映える空から妙なる beautiful harmony も聴こえてきたでしょうか。

 

けれども、万葉集がにわかに注目されて、万葉の時代がまるで平和でのどかな理想的な時代であったかのようにもてはやされるのには相当な抵抗感があります。

 

奈良時代の繁栄を享受できたのは一握りの特権階級のみで、農民は重税と防人のような労役に苦しんでいたのです。

 

製鉄工場に使われる薪炭の材となった緑の森は次々に伐採され、その下の粘土も掘り尽くされて、荒れ放題の野っぱらとなり、底辺の人びとは茅葺き屋根あるいは穴倉や洞窟に住んで、煤煙に顔を真っ黒にして下働きさせられていたのです。

 

Beautiful harmony は、この世のものにあらず、天空に響き渡るもの(music of the spheres)の謂いではないのか。

 

古代ギリシアの時代から天体の運行が人間の耳には聴こえない音を発して、宇宙全体が一つの大きな音楽を奏でるという発想がありました。

 

天球の音楽は、しかし、常に大きく鳴り響くために、人間はその音に気づかない。

 

数の原理に基づいて音楽が宇宙を体現すると着想したのは紀元前6世紀のギリシアの哲学者ピタゴラスですが、これをプラトン、プトレマイオス、アウグスティヌス、ボエティウスらが受け継ぎ、ケプラーも自身の理論を天球の音楽に結びつけました。

 

天球が発する音楽、人間の体が発する聴こえない音楽、人間がつくった聴こえる器楽音、これらが段階を経て美しく調和すると彼らは考えたのです。

 

一大調和である愛の歓び、しあわせは、この世のものだけに終わるはずもなく、その無上のしあわせ感は天上界からの至福の声によって称えられていい。

 

天上界から届けられる声、であるならば、詩人シェイクスピアが言及しないはずがありません。

 

箱選びのシーンもヴェニスでの裁判のシーンも首尾よく終えたポーシャがベルモントに帰ってくる直前のくだり。

 

 

ロレンゾー 中に入って、お帰りを待つとしよう。

 いや。もう少しここにいようか?

 ステファーノ、頼む

 家じゅうに、奥様がお帰りだと伝えてくれ、

 楽師たちには外にと。

 なんてきれいなんだ月の光がこの庭に眠っているよ、

 ここに座って、音楽を

 そっと耳に入れようじゃないか、夜が

 美しいハーモニーの調べにぴったりだ。 

 お座りジェシカ、ほら空一面に

 キラキラした金の宝石がびっしりだよ、

 ここから見えるどんな小さな球も

 移動しながら天使のようにうたっているんだ、

 地球の周りを巡りながら

 あどけない瞳のケルブの声に合わせて。

 不滅の魂には天球の音楽が宿る、

 でもこの朽ちて行く泥の衣を

 卑しく纏っている間は、音楽は聴こえない。

 さあこちらに、ダイアナへの讃美歌を頼むよ、

 この上ない甘い調べを奥様の耳に真っ直ぐに届けて、

 音楽でお部屋まで案内してくれ。

ジェシカ 私はきれいな音楽を聴いても少しも楽しくないの。

 音楽の演奏。

ロレンゾー それはね、君は気が利き過ぎるから。

 野生の気ままの牛を見てごらんよ

 若い飼い慣らされていない子馬もそう、

 ぴょんぴょん跳ね回って、吠えたりいなないたり、

 血が熱くたぎっているよね、

 ところがたまたまトランペットの音が聴こえて、

 音楽の一節でも耳に入ると、

 みんな一斉に立ち止まって、

 荒々しい目も穏やかな眼差しに変わる、

 音楽の素晴らしい力によって。だから詩人は

 うたったんだオルぺウスは木、石、川を魅了したって。

 鈍感、頑迷、野蛮な連中も、

 音楽を聴けばたちまちその心根は変る、

 心に音楽を持たない者、

 綺麗な音楽の調和に感動しない者、

 そういう輩は叛逆、陰謀、略奪を犯しかねない。

 精神は夜のごとくに鈍く、

 感情は地獄のごとくに暗い、

 そういう奴らは信用できないよ。音楽を聴こう。

 

                5幕1場

 

 

Loren. Let's in, and there expect their comming.

 And yet no matter: why should we goe in?

 My friend Stephen, signifie pray you

 Within the house, your Mistresse is at hand,

 And bring your musique foorth into the ayre.

 How sweet the moone-light sleepes vpon this banke,

 Heere will we sit, and let the sounds of musicke

 Creepe in our eares soft stilnes, and the night

 Become the tutches of sweet harmonie:

 Sit Iessica, looke how the floore of heauen

 Is thicke inlayed with pattens of bright gold,

 There's not the smallest orbe which thou beholdst

 But in his motion like an Angell sings,

 Still quiring to the young eyed Cherubins;

 Such harmonie is in immortall soules,

 But whilst this muddy vesture of decay

 Doth grosly close in it, we cannot heare it:

 Come hoe, and wake Diana with a hymne,

 With sweetest tutches pearce your Mistresse eare,

 And draw her home with musicke.

Iessi. I am neuer merry when I heare sweet musique.

 Play musicke.

Lor. The reason is, your spirits are attentiue:

 For doe but note a wilde and wanton heard

 Or race of youthful and vnhandled colts,

 Fetching mad bounds, bellowing and neighing loud,

 Which is the hot condition of their bloud,

 If they but heare perchance a trumpet sound,

 Or any ayre of musicke touch their eares,

 You shall perceiue them make a mutuall stand,

 Their sauage eyes turn'd to a modest gaze,

 By the sweet power of musicke: therefore the Poet

   Did faine that Orpheus drew trees, stones, and floods.

 Since naught so stockish, hard, and full of rage,

 But musicke for time doth change his nature,

 The man that hath no musicke in himselfe,

 Nor is not moued with concord of sweet sounds,

 Is fit for treasons, stratagems, and spoyles,

 The motions of his spirit are dull as night,

 And his affections darke as Erobus,

 Let no such man be trusted: marke the musicke.

 

     expect = await     signifie = announce     tutches = strains     pattens  パンを

      置く金・銀の皿      quiring = choiring      grosly = materially     race = group 

     stockish = stolid      rage = savageness      fit = ready     spoyles

     = acts of plunder    Erobus = Hell

 

 

夜空にまたたく無数の星、耳には聴こえないが宇宙に満ちみちている音、それに木霊して聴こえてくる楽の調べ、月の光、これらの情景から思い起こされるであろう天球の音楽がひそやかな響きを伴って観客に届けられるのです。

 

19世紀以降天球の音楽観は忘れられましたが、ヨーゼフ・シュトラウス(1827-70)によって新しい光が当てられました。

 

「ウイーンの森の物語」や「美しき青きドナウ」等の作品のある兄のヨハン・シュトラウス2世からウィ−ン大学医学舞踏会の音楽監督を引き継いだヨーゼフによって、1868年1月21日に「天球の音楽」が舞踏会のテーマとして初演されました。

 

この日会場全体は星を散りばめた青色の絹布で beautiful に飾りつけられたと伝えられています。

 

願わくば万葉の風よ、新しく大きく吹き直してくれないか、そして天球の音楽を届けてくれ、気が利き過ぎて疲れ切った人間の頭を弛め、荒々しい目が穏やかな眼差しに変わるように、美しいハーモニーの調べによって茜色に映える「れいわ」「れいな」の時代が訪れるように。

 

 

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